佐和子さんは5年前、小学校時代の同級生である秀一さんと結婚した。秀一さんは家業の運送業を継いでおり、佐和子さんはその右腕として管理業務を一手に引き受けている。
ただし、初恋の人と再会して大恋愛、といったストーリーではないようだ。佐和子さんによれば、秀一さんは「子どもの頃は一度も話したことがないし、話したいとも思わなかった」らしい。佐和子さんは目立つタイプで、秀一さんはおとなしめだったからだ。そして、佐和子さんは小学校3年生まで暮らしていた現在の居住地域と一度は決別した過去がある。
「母の実家があるこの地域で生まれ育ちました。でも、父が転勤族だったので東北地方のほかの地域に引っ越したんです。高校時代はまたこの地域に戻って3年間を過ごしていましたが、そのときに仲良くしていた子から急に敬遠される出来事がありました。その後はみんなからよそ者扱いされた苦い思い出があります」
県外の大学を卒業し、大手企業の支社に就職することができた佐和子さん。「直球ストレートな性格」を買われて新規事業の立ち上げ現場を任せられることが多かった。同じ業界内で転職もして、職業人としての自信を深めていた30代半ばに地元に戻らざるをえなくなった。
「祖母の介護が必要になったからです。母は車の運転ができないので、私が月1で一緒に付き添うことになりました」
同窓会が転機となる
そのときに小学校時代の同級生の女性と路上で再会。連絡先を交換したところ、3年後に同窓会に誘ってもらった。男性の厄年を機に、同級生で集まるというのだ。
「地元でよそ者扱いされたイメージしかなかったので、誘ってくれた幹事の子にストレートに伝えたんです。私が行ってもいいのか、と。『その話は知ってる。正直、佐和子ちゃんに来てほしい人と、来てほしくない人に分かれてる』と言われました。来てほしいと言ってくれる人がいるなら行くしかない、売られたけんかも買うしかない!と緊張しながら参加しました」
いい年齢の男女が何を言っているのか、と思うかもしれない。しかし、人間の集団は多かれ少なかれ「好き嫌い」で形成されるものだし、子どもの頃からの経緯がある出身地での集まりだとその傾向が強くなる。同じ学年の卒業生で集まると、よくも悪くも子ども時代の感覚に戻ってしまったりする。
同窓会には50人ほどが参加した。秀一さんも来ていたようだが、佐和子さんはよく覚えていない。小学校時代の再現である。佐和子さんを誘ってくれた女性によれば、翌日も有志でBBQをやるという。中心メンバーたちが佐和子さんに来てほしいそうだ。
「そんなに私のことを好意的に思ってくれる人たちがいるならば行ったほうがいいな、と思いました」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら