抗議デモに強硬姿勢でトランプ再選はどうなる 東大の久保教授が語る混乱の背景と大統領選
――トランプ氏が社会の分断に拍車をかけてまで強硬姿勢をとる狙いは何でしょうか。
2016年の大統領選挙の時、トランプ氏は「アメリカを再び偉大にする」と言ったり、白人のブルーカラーを「忘れられた人々」と呼んで支持を訴えたりしたが、もう1つよく使った言葉が「Law & Order(法と秩序)」だった。
これはニクソン元大統領がよく使った言葉で、激しいベトナム反戦運動を冷ややかに見ていた白人中間層の立場に立ってこの言葉を用い、大統領選に勝利した。トランプ氏も略奪行為を働く黒人の側には立たず、略奪行為に冷ややかな人たちの側に立つというメッセージを出そうとしている。
――強硬姿勢はトランプ再選に有利に働くのでしょうか。
世論調査では、今回のトランプ氏のデモへの対応を支持しないという人のほうが多い。ただ、それだけでは同氏に不利とはいえない。
2016年の大統領選でも同氏は過半数の票を取ったわけではなく、全米での得票率でも50%を大きく割り込み、ヒラリー・クリントン氏(元国務長官)に負けていた。それでも当選したのは、大統領選特有の選挙制度の下、選挙人獲得数で上回ったからだ。
支持基盤を固めるトランプ氏
今回のコロナ危機でアメリカではすでに10万人を大きく超える死者を出した。こうした惨憺たる状況にもかかわらず、トランプ氏の支持率は45%前後を維持している。それは、同氏にかなり固い支持基盤があるためだ。
トランプ氏は今、コロナ危機下における経済活動封鎖の解除を優先する立場に立ち、選挙運動をしている。すでに全米の州で少なくとも部分的に活動が再開されているが、経済再開の議論を選挙に向けて国民投票のような形に持っていこうとしている。
その中心的な支持者が、政府の制約を嫌う共和党派の人たちだ。彼らはアメリカ全体では過半数ではないにしても、コアの支持基盤としてがっちり固まって投票所に行ってくれれば、僅差で勝ち抜けるという計算がトランプ大統領にはある。逆に、変にブレると「裏切り者」として支持者を失うことになりかねない。
1992年のロス暴動の時は、ロドニー・キングという黒人男性が逮捕された際に警官に暴力を振るわれたことがきっかけだったが、当時のジョージ・ブッシュ(父)大統領はデモの暴力的行為にも理解を示すという態度をとった。それゆえに共和党の保守派から「裏切りだ」と批判され、支持者を失う一因になった経緯がある。トランプ氏は、そうした妥協的な行為がマイナスに作用することを教訓として意識しているのかもしれない。
――11月の大統領選に向けて、今後どのような展開が予想されますか。世論調査では現状、民主党の指名獲得が確実なジョー・バイデン前副大統領がトランプ氏に対して支持率でやや優勢のように見えます。
選挙まではまだ5カ月あり、それまでに今回のデモの問題は沈静化するかもしれず、直接的な影響度はわからない。何と言ってもコロナの問題のほうが中心テーマとなる可能性もある。いずれにしてもトランプ氏は国民の融和や団結を図るような言動は戦術として採らず、経済再開の優先など、コアの支持基盤を固める政策に重点を置くことになる。
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