抗議デモに強硬姿勢でトランプ再選はどうなる 東大の久保教授が語る混乱の背景と大統領選

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久保文明(くぼ・ふみあき)/1956年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科教授。79年東京大学法学部卒業。筑波大学助教授、慶応義塾大学教授などを経て2003年から現職。専門はアメリカ政治。著書に『アメリカ政治史』『アジア回帰するアメリカ』(編著)など。

さらに今は新型コロナの問題がある。黒人の感染率、死亡率は(白人に比べ)非常に高い。

感染が深刻なニューヨークでも、富裕層は都会から離れた別荘で暮らす人が多いが、小売業や配達業、病院など感染の危険性の高い現場で働く人には黒人などマイノリティー(少数民族)が多い。基礎疾患があるとか健康状態の悪い人が多いのも彼らだ。それがフラストレーションになっている中で暴行事件が起き、デモ拡大に拍車をかけた。

そして、トランプ大統領は対立した国民を和解させ、団結させる方向の言動をとるのではなく、抗議デモを一種の「暴動」だとして軍の投入すら示唆している。完全に白人の側に立った言動であり、それがデモを拡大し、長引かせている。

――コロナ禍で失業率が急上昇していますが、人種別の失業率を見ても黒人は相対的に高い状態が続いています。

ホワイトカラーには白人が多い反面、今回雇用面でもいちばん打撃が大きいレストランなどサービス業で働く人や日雇いの人には黒人などのマイノリティーが多い。経済的な不満や不安も彼らに集中している。

平和的運動と暴力的運動に分極化

――抗議デモが一部で暴徒化している背後に、極右や極左の過激派団体が関与しているとも言われます。

今回に限っては白人の過激派が煽ったということではないと思う。以前、南部バージニア州シャーロットビルにおいて、南北戦争で南軍を率いたリー将軍の銅像撤去をめぐって暴動が起きた時(2017年)に白人右派が対立を煽ったことがあったが、今回はそれほどないのではないか。

むしろ今回は、黒人の中で平和的な運動と暴力的な運動の分極化があって、平和的な運動はかなりの白人も共感を覚えて行動を共にしているほか、海外でも広がりを見せている。

一方、一部の黒人の武闘派が暴動を煽って、特にニューヨークのソーホー地区などで略奪行為を働いているようだ。これはごく一部の動きなのだが、保守系のメディアはむしろそこに注目し、単なる暴動、略奪行為だとして報道している。トランプ氏はそちらの側に立って、暴動制圧という方向に議論を導こうとしている。

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