ジブリが「調べるよりも記憶」を大切にする理由

鈴木敏夫×石井朋彦が語る「ジブリの仕事術」

鈴木:宮崎駿って人もそうなんです。全部覚えちゃうんですよ。例えば『もののけ姫』の前、2人で小樽を観光していたら、ある建物の前で宮さんが立ち止まった。小樽で有名な「鰊(にしん)御殿」です。その前に立ってじーっと見てるんですよ。30分から1時間くらい。

──何をされていたんでしょうか?

鈴木:丸ごと、覚えているんです。屋根の形、窓がどういう方式で、間取りがどうなっているか。1個1個、全部覚えていく。多分、頭の中で100個くらいに分類しているんです。ぼんやりと全体を記憶しようとしない。1個1個の細部を具体的に覚える。そして、ほかの場所に移動してからも、どのくらい思い出せるか、頭の中で反芻している。

石井:宮崎さんは、資料を手元において描かないですね。

忘れないように繰り返し頭の中に刻み込む

鈴木:100個覚えたことが、歩き出した途端に50%くらいになる。普通の人だと、次の日には10%になる。その次の日には3%くらいになったりする。でも宮さんは、忘れないように繰り返し頭の中に刻み込んで、血肉にしてしまう。

僕もそうです。人に話を聞いたあと、1時間以内にまとめると、だいたい覚えていられる。でも夜になると、半分以下になってしまう。だから、原稿は取材した直後に書かなきゃいけない。宮さんの場合は、1時間以内に覚えて反芻してから、1回止めるんです。そして、寝る前にもう1回思い出す。さらにそのあと、1回封じる。で、半年とか1年、放っておく。

そして映画作るときに「あれ使おうかな!」って、頭の中の引き出しからそれを引っ張り出すんです。鰊御殿は『もののけ姫』のエボシ御前の御殿になった。「鈴木さん、覚えてる?」って。もちろん僕も覚えていて「あ、鰊御殿じゃないですか」って。

──スケッチもされていないんですよね? すごい記憶力です。

鈴木:ただし、そのまま使っているわけじゃなくて、大きくなっている。僕の推測だけど、1年経って覚えているのは、100個覚えたうちの、30個くらいなんだと思うんです。そうすると、70個は覚えていないでしょ? それを絵にするときに、想像したり、ほかから持ってきてつじつまを合わせるんです。

だから、オリジナルの建物になる。これが宮さんのオリジナリティの秘密。大事なのは覚えておくこと以上に、70個は思い出せないってことなんです。思い出せないことによって、鰊御殿とはちょっと違ってくる。覚えていない部分は、想像で補う。そこから、独創的な世界が生まれる。

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