ジブリが「調べるよりも記憶」を大切にする理由 鈴木敏夫×石井朋彦が語る「ジブリの仕事術」

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──鈴木さんのもとで、どのように「記憶と整理整頓」の術を磨いていったのですか?

石井:毎日、鈴木さんに、メールを送る日課がありました。鈴木さんの打ち合わせや、宮崎駿監督が語ったことをノートにすべて書きとめ、その日のうちに読み返して整理し、メールで送るんです。鈴木さんはどんなに夜遅くとも、翌朝には返事を下さった。それを3年続けることで、仕事の基礎を鍛えていただきました。

鈴木:僕が石井に繰り返し言ったのは、会議のとき、しゃべるなっていうこと。何故なら、自分の意見を言おう、言おうとすると、相手が何を考えているか、議論がどういう方向に進もうとしているのかが見えなくなってしまうから。皆が話したことを、表情やその場の雰囲気まるごとメモすること。若いうちは、自分の意見なんて持たなくていいんです。何もないことが、若者の長所なんだから。

石井:『思い出の修理工場』の中でも、主人公のピピは、ズッキに「ズッ記」という手帳を渡されて、その日起きたことをすべて書きとめるように指示されます。ファンタジー小説なので、メールではなく、反対のページに返事が浮かび上がる不思議なノートという設定になっていますが(笑)。

物語の中では…

革の手帳をひらき、声をあげました。昨晩書きこんだページの反対側に、丸っこい右肩上がりの字で、返事が書かれていたのです。
ようこそ、われらが工場へ。
これから毎日、その日にあったこと、おぼえたこと、考えたことを書くこと。
あとでやろうと考えてはいけない。昼間伝えたように、人は、すぐに二割、夜には五割、翌朝には八割忘れている。忘れる前に、書いて、おぼえる。仕事をするにあたって一番大事なことは、全てをメモにとり、頭にたたきこむこと。 
大事なのは、記憶力だよ。
よろしく。
                                ズッキより
夜のうちに、ズッキが書きこんだのでしょうか?
でも、手帳はピピの腕の中にあったはずです。ピピはキツネにつままれたような気持ちで、日誌をかかえて走り出しました。じっさいには靴が重くて、ヒョコヒョコとペンギンのような足どりだったのですが……。
(『思い出の修理工場』P89より引用)

鈴木:『千と千尋の神隠し』の、絵コンテを全部暗記してって言ったの。台詞だけでなく、カット割りや台詞と台詞の間のト書きもすべて。石井はそれをちゃんとやってくれたんだよね。僕としては便利だし、助かりますよね。あの台詞なんだっけなって思ったとき、石井がそばにいて、歩く辞書のように教えてくれる。

宣伝やコピーを考えるときに、それはとても重要なんです。「あの台詞の前後に、大事な言葉が書いてなかった?」って聞くと、覚えているわけですよ。だから、僕にとってはすごく役に立ったんです。自分の意見ばっかりの人間よりも、物事を正確に記憶して整理整頓できる人間のほうが、いい仕事ができるんじゃないかなぁ。

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