公立保育園で1981年に栄養士として働き始め、労働組合活動を通して規制緩和の流れを問題視してきた仙台市の樋口典子市議は指摘する。
「規制緩和を受け、保育園の中で“多様な雇用形態”があることを是とした頃から、非正規雇用の保育士が冷遇されるようになったのではないか。延長保育にしても、正職員が交代制で行うのか、短時間勤務の非正規雇用の保育士に担ってもらうかという問題がある。延長保育を非正規に任せることになれば、『正職員はいいとこ取り』になってしまう。この延長線上にコロナ禍の労働問題もあり、非正規雇用の保育士への配慮が欠けていくのではないか」
介護・保育ユニオンに寄せられたとんでもない実態
5月2日から18日までの間に、個人加盟できる労働組合の介護・保育ユニオン(東京都世田谷区)にはコロナ関連の相談が東京を中心に全国から130件も寄せられた。保育園で働く保育士、看護師、調理師など相談のほとんどが女性で30代と40代で半数を占めた。
正職員からの相談は36件で、パートが最も多い65件だった。契約社員、派遣、アルバイトを含めた非正規雇用の合計は78件に上った。相談結果の集計からは、子育て世代の女性が非正規雇用で働き、賃金カットの対象になったことが鮮明となった。
コロナ後も保育士が辞めずに保育体制をとれるようにと、内閣府は事業者に支払う運営費の「委託費」を満額支給している。もちろん、人件費分も従前と変わらず給付している。しかし、介護・保育ユニオンへの労働相談では、保育士が休業となった際の賃金補償は、「補償なし」という相談が最も多い54.5%で、「6割」支給が32.3%という状況。パート保育士だけで見ると、「補償なし」が63.5%、「6割」支給が23.8%で、より不利な立場に置かれていることがわかる。
相談内容を詳しく見ると、正職員でも「賃金の4割カット」、「混乱に便乗した定期昇給の見送り」、「コロナによる『特別有休休暇』ではない通常の有給休暇消化の強制」など。そして非正規雇用からの相談では、「正社員は補償があるがパートはない」「正社員は有給休暇を消化するよう求められ、パートの賃金補償はない」などの差別の現実が突きつけられた。
なかにはシングルマザーで休業を命じられ、その分が無給になるのでは生活できないという切実な声もあった。コロナで雇用格差が浮き彫りになり、正職員は在宅勤務で賃金も補償されるが、非正規職員に出勤を命じてリスクを負わせるような例もあったという。生活がかかっているだけに非正規では簡単に休むこともできない。
そして、責任者が事実に基づかないであろう説明をしている相談まであった。登園する児童数の減少により休業を命じられた保育士が、休業期間中の賃金補償を求めると、園長から「自治体からそういったことは、してはいけないと指導を受けた」と言われたという。内閣府は保育士について「ノーワークノーペイを想定していない」と表明しているのだが、地方自治体がノーワークノーペイを推奨するのだろうか。
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