コロナがあぶり出した保育士「ありえない格差」 国の指示に従わない保育園も多数ある実態

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保育園児と小学校低学年の子どもがいる紘子さんは、「非正規雇用でなければ働くことこが難しい」と考えている。基本的な開園時間は午前7時ごろ~午後6時ごろまで。保育園によって前後の時間帯に早朝保育や延長保育が実施される。午前6時からの早番シフトや午後10時までの遅番シフトがある場合もあり、小さな子がいながら早朝夜間のシフトに入るのは困難だ。

紘子さんの同僚の正職員の女性は育児時短勤務で働いていたが、子どもが熱を出して休みがちなことで、系列の福祉施設に異動になった。育児時短勤務だとしても、正職員であれば週5日の勤務に加えて、月に何度かは土曜の勤務も入る。人手不足の中で同僚は「遅番がダメなら早番に出て」とも頼まれていた。時短といっても遅番が免除されるだけで、午前8時から午後5時までのコアタイムの出勤を求められ、フルタイム勤務とほとんど変わらない。

紘子さんの子どもが通う保育園では、千葉県や埼玉県から都心まで片道2時間かけて通勤して体を壊した保育士がいた。保育園を増やしている民間の事業者で働く正職員であれば異動はつきもの。公立であってもやはり異動はあり、自宅から遠い保育園で働くことは避けられない。それを考えると、紘子さんは「正職員は難しい」と思うのだった。

さらに、いつ子どもが発熱して保育園からのお迎え要請があるかもわからない。紘子さんの夫は安定収入があるが、宿直勤務があって職場に長く拘束される職種だ。子どもが体調を崩しても、夫は急には休めない。もし災害が起こった場合はどうするのか。

日常生活を考えても、保育園には延長保育があるものの、小学生となると学童保育の終わる時間は早い。小学生の子の宿題は何時に誰が見てあげるのか。核家族で子育てと仕事を両立させるには、紘子さんが柔軟な働き方である非正規雇用を選択するしかなかった。

正規社員との明らかな差

コロナ禍で登園児が減ったことと、小学校の休校に伴って、紘子さんは4~5月は休業した。正職員はシフト手当などが減給されたが基本給が補償された一方で、非常勤職員の賃金補償は4割カットの6割支給と差があった。

紘子さんは、「保育士が子育てしながら正職員で働くことのハードルはあまりに高い。それは、一般企業で管理職になりたいと思ってもなれる子育て環境にない女性がいるのと同じ構造ではないか。とはいえ、非正規雇用であっても担任は担任。専門職としての責任がある。この状態でどうやって保育の質を向上していけるのだろうか」と疑問を感じている。

紘子さんのように保育士が非正規雇用でも担任まで持つようになった背景には、規制緩和がある。そもそも保育園には保育士の最低配置基準があり、厚生労働省の通知によって「常勤の保育士」(正職員と同意)が条件となっていた。それが1998年に短時間勤務(1日6時間未満または月20日未満勤務)の保育士の導入が認められ、2002年から適用された。小泉純一郎政権下、規制改革推進の渦に保育園も巻き込まれていた。

保育士不足の中、本来は補助的な存在だったはずのパートの保育士までが配置基準を満たす戦力と化した。そして、短時間勤務者を配置しても常勤を配置するのと変わらない保育単価として扱われたため、人件費削減の温床になり、非正規雇用の担任が登場したのだ。

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