コロナがあぶり出した保育士「ありえない格差」 国の指示に従わない保育園も多数ある実態

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介護・保育ユニオンには、コロナが発生する以前から非正規雇用の保育士からの相談が多く寄せられている。シフト勤務の正職員では子育てとの両立が難しく、育児休業から復帰するときに非正規雇用に転じるか、辞める選択をする保育士は少なくない。

ある保育士は、子育て中のため非正規で働いているが、正職員が休む日の代替として確実な出勤を求められ、同ユニオンに相談。わが子がインフルエンザにかかってもベビーホテルに預けてまで出勤せざるをえず、保育士を辞めるべきかと悩んでいたという。

同ユニオンは「保育士にとって自身の子育ては保育にプラスになる側面があるのに、それが軽視されているから非正規雇用になる。結果、コロナでいちばんのしわ寄せを受けた」と憤る。そして、コロナ禍の相談から改めて問題提起する。

「国から委託費が満額出ているにもかかわらず賃金カットが横行するのは、人件費をほかに流用できる『委託費の弾力運用』という制度による影響だ。きちんと人件費をかけない姿勢がコロナでより一層、表面化した。内閣府が通知を出しても強制力がなく、自治体は民間の給与だといって実態把握に努めない傾向がある。コロナという公衆衛生を脅かす問題が残る中で保育園の運営を維持するには、国が想定する人件費分が確実に保育士に回るような手だてを講じるべきだ」

保育士の問題は、あまりにも根深い

コロナを機に保育士の非正規雇用問題の根深さが露呈した。戦後から大きく変わらない最低配置基準のまま、短時間勤務の非正規雇用でもよしとされ、委託費の弾力運用も規制緩和され続けた結果、年間の委託費収入の4分の1も流用できるようになっている。

委託費の8割が人件費として給付されているため、保育園を運営する事業者が営利を求めれば当然、ギリギリの保育士数で非正規雇用を増やして利益を確保したくなるだろう。

コロナ禍の非正規雇用の保育士への待遇問題には、その事業者の姿勢が現れる。保育園とは、児童福祉法が定める福祉施設であり、保育の質をつくるのは保育士だということを忘れてはいけない。

小林 美希 ジャーナリスト

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こばやし・みき / Miki Kobayashi

1975年、茨城県生まれ。株式新聞社、週刊『エコノミスト』編集部の記者を経て2007年からフリーランスへ。就職氷河期世代の雇用問題、女性の妊娠・出産・育児と就業継続の問題などがライフワーク。保育や医療現場の働き方にも詳しい。2013年に「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。『ルポ看護の質』(岩波新書、2016年)『ルポ保育格差』(岩波新書、2018年)、『ルポ中年フリーター』(NHK出版新書、2018年)、『年収443万円』(講談社)など著書多数。
 

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