香港版「国家安全法」でこれから何が起きるか

コロナで加速した米中チキンゲームの先行き

新法のポイントは、①香港での人権弾圧に関わった人物のアメリカ国内での資産凍結やビザ発給の停止、②アメリカの国務長官が最低でも年1回、香港への優遇措置継続の是非を判断、といったことにある。ポンぺオ長官の発言も、この法律の手続きに沿ったものだ。

また、同法ではアメリカの商務長官に、香港でアメリカの輸出規制や制裁措置への違反が行われていないかを議会に報告することも求めている。香港から大陸に軍事へ転用可能なハイテクが流出していないか、北朝鮮やイランにアメリカの製品や技術が渡っていないか、といった問題意識が垣間見える。アメリカ議会からすれば、中国を代表するハイテク企業であるファーウェイ(華為技術)が香港のすぐ隣、広東省深圳にあるのは偶然とは思えないのではないか。

「香港人権・民主主義法」成立に中国は「内政干渉だ」として反発。アメリカ艦船の香港寄港拒否などを表明した。

とはいえ、2019年のうちは米中の対立も現在ほど深刻でなかった。今年1月15日にはアメリカの財・サービスの対中輸出を2017年より2000億ドル増やすという第1段階の貿易合意が成立している。トランプ政権にとっては香港をめぐる一連の動きも中国とのディールの道具だったのだろう。

そもそもトランプ大統領は「逃亡犯条例」への反対運動が最高潮に達していた昨年8月にもデモを「暴動」と呼び、「香港は中国の一部であり、中国自身がそれに対処する必要がある」と話していた。香港の人権問題に関心があったとはとても思えない。

コロナで状況が一変

状況を一変させたのは、中国の武漢を感染源とする新型コロナウイルスの世界的な流行だ。アメリカ国内の死者が10万人を超えた現在、再選へのリスクを感じるトランプ氏は中国をこれまで以上に強く批判する必要に迫られている。「中国との関係を断つこともありうる」と極言したうえで、ファーウェイへの制裁強化など、かつてない強硬策に打って出ている。

今回の国家安全法問題で、中国はトランプ政権からのけんかを正面から買ったことになる。ここまでの強硬姿勢を示すのは、専門家にとっても予想外だった。香港政治を専門とする立教大学の倉田徹教授は「全人代開催前日に発表されるまで予兆がなく、青天のへきれきだった」と振り返る。

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