香港版「国家安全法」でこれから何が起きるか コロナで加速した米中チキンゲームの先行き

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香港では9月6日に立法会議員選挙が行われる。70議席の過半数となる36議席以上を民主派がとれるかがポイントだ(前回は30議席)。昨年11月の区議会選挙では民主派が圧勝したが、「立法会議員選挙は制度が違うので、区議選の再現は簡単ではない」(倉田教授)。新型コロナ対策を名目にした延期の可能性もささやかれる。中央政府は区議選では親中派の勝利を信じて失敗しただけに、今回は新たな法律をも武器にして万全の構えで民主派を抑え込むのだろう。

今回の法案について詳細はまだ明らかになっていない。28日の採択後の新華社報道によれば、①国家分裂(香港独立運動)、②中央政府転覆、③テロ行為、④外国の干渉、が防止する対象として挙げられている。反政府デモはどの名目でも取り締まれることになりそうだ。

また、「中央の国家安全関連の政府機関は必要に応じて香港に出先機関を設立し、職責を履行する」ともされている。中国の国家安全省など治安・防諜機関が香港に直接乗り込んで市民の取り締まりに当たることも想定されているようだ。

「香港特別行政区の行政機関、立法機関、司法機関は関連法律の規定に基づき国の安全を危うくする活動を効果的に防止し、抑止し、処罰しなければならない」とあるため、司法の独立も危ぶまれる。立法、司法、行政のいずれでも香港の自治の建前は崩れたといえるだろう。

香港でのデモ頻発は必至

香港市民の反発は必至だ。香港では6月4日には天安門事件の追悼集会、同9日には昨年に100万人以上が集まったデモから1周年を迎えるなど、政治的なイベントが続く。ことあるごとにデモが発生するだろう。平行して北京では6月末までに全人代常務委員会で香港版国家安全法の審議が始まり、8月末までに成立、即日施行されるとみられている。

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国家安全法の条文はまだ明かされず、罰則などもまったくわからない。中国も、米国をはじめ国際社会の出方を見定めてから内容を詰めていく構えとみえる。

全人代の閉幕会見で、アメリカの記者が「中国は経済改革と譲歩で “新冷戦”とデカップリングを防ぎ止めることができますか」と問いかける場面があった。

李首相の答えは「私たちは冷戦思想を捨てるべきだとずっと言ってきた。世界の2つの主要経済体のデカップリングは誰にとってもメリットがなく、世界を傷つけてしまう」というものだった。想定外のパンデミックで制御不能になりつつある米中のチキンゲームは、世界のサプライチェーンとマネー市場を大きく揺さぶり始めた。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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