「中国は約束された『1国2制度』を『1国1制度』に変えてしまった。香港を特別に扱う優遇措置を撤廃するプロセスを開始するよう指示した」
5月29日午後2時48分(アメリカ東部時間)、アメリカのトランプ大統領がホワイトハウスのローズガーデンで行った記者会見に世界の投資家が注目した。トランプ氏は中国が香港に国家安全法制を導入する方針が伝わった5月21日の段階で「非常に強力な対応」を用意すると宣言していただけに、この日の発言には株式市場からの注目度も高かったのだ。
同27日にはポンぺオ国務長官が「もはや香港が『高度な自治』を維持しているとは言えない」として、これまでアメリカが香港に認めてきた優遇措置の撤廃を示唆していた。アメリカは1992年に定めた香港政策法で、1国2制度のもと香港に一定の自治があることを前提に関税やビザ発行などで中国本土とは別の扱いを認めてきた。
しかし、昨年夏に香港で「逃亡犯条例」への反対デモが大規模化すると、アメリカでは強権化する香港政庁やその背景にいる中国政府への反感が強まった。アメリカ議会では香港政策法の見直しを求める声が高まり、昨年11月に「香港人権・民主主義法」が新たに成立した。新法では、アメリカの国務長官が最低でも年1回、香港への優遇措置継続の是非を判断することが求められている。
「荒業」を見送ったトランプ大統領
その答えをすでにポンぺオ氏が表明している以上、優遇措置の撤廃は投資家も織り込み済みである。それ以上の制裁措置、たとえば1月に米中が合意した貿易交渉の第一段階合意を破棄するといった荒業が飛び出すかが焦点だった。
結論からいえば、トランプ氏の発言は想定内のもので投資家は安堵したようだ。香港への優遇措置撤廃の時期も示されなかった。S&P総合500種指数は小幅高の3044.31ポイントで終了し、ダウ平均株価は会見終了後に値を戻し17ドル安の 2万5383.1ドルで引けた。週明けの6月1日の香港株式市場ではハンセン指数が大幅高。日本市場でも終値は184円高の2万2062円となった。
アメリカでの新型コロナウイルスによる死者が10万人を超えたことで11月の再選が危うくなったトランプ氏は、中国批判のボルテージをどんどん上げている。29日の会見でも、最近は控えていた「武漢ウイルス」という呼称を使ったうえ、中国が新型コロナについて情報を隠蔽してきたと非難。その中国に牛耳られているとしてWHO(世界保健機関)への資金拠出をやめると発表した。
ほかにも、中国が長年アメリカの産業機密を狙うスパイ活動をしてきたとして、疑わしいとみなす中国人の入国を禁止。さらにアメリカに上場する中国企業がアメリカ当局の検査を拒んだ場合は上場を廃止するなど、10分間の会見の間にトランプ氏は中国がらみの制裁措置をいくつも列挙すると、記者の質問を受け付けずにその場を去った。
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