香港「国家安全法」めぐるトランプ砲は不発か コロナ禍に焦り制裁を連打するが「弾切れ」に

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「アメリカはまた、香港の自治を侵食し、香港の自由を絶対的に窒息させることに直接または間接的に関与している中国と香港の当局者を制裁するために必要な措置を講じる。われわれのアクションは強力で、意味のあるものになるだろう」。29日の会見でトランプ氏はそう語った。

では、香港の優遇措置撤廃はどれほどの効果を持つだろうか。中国政府の「本音」の発信を担っているとみられる共産党系メディア「環球時報」が先回りして興味深い記事を載せていた。香港政府の財政・経済政策のトップである陳茂波・財政長官へのインタビューで、取材日は5月29日。同日の23時過ぎに電子版に掲載されており、トランプ氏の会見に数時間先行している。

香港政府は対応に自信あり

陳氏は「香港政府は、アメリカが近く香港に対して行う経済制裁措置に十分な対応をする用意がある」と話した。環球時報の記者は、アメリカが採るであろう対応の中から、①大陸から独立した関税区としての香港の地位、②アメリカから香港へのハイテク輸出の認可、③香港ドルと米ドルのペッグ制度の維持可能性、の3分野について質問している。

まず①の、アメリカが香港に対する特別関税待遇を撤廃する可能性について、陳氏は「独立した関税区としての待遇は香港基本法で与えられたもので、アメリカとは関係ない」としたうえで、「香港政府はすでに特別関税待遇が一方的に撤廃される可能性を検討し、対策を策定した」と述べた。香港にとって、この措置の影響は小さいという。「香港の製造業の生産額のうちアメリカへの輸出は2%未満。香港の総輸出量の0.1%未満だ」(陳氏)。

ここで陳氏は語っていないが、アメリカ政府の真の狙いは香港を対中制裁関税の抜け道にする中国企業にある。香港とアメリカの間の貿易が基本的にゼロ関税であることで抜け道が生じているのだ。

だが、アメリカが関税合戦に出ることは考えにくい。昨年のアメリカの対香港輸出額は308億ドルに上り、260億ドルもの貿易黒字を計上している。アメリカの最大の輸出先であり、その関係を壊すのは得策ではない。

②のハイテク輸出認可の撤回について陳氏は、「機微なハイテクの輸出制限は香港に一定の影響を与える」と認めている。しかし、「すでにアメリカからハイテクを香港に輸入するのは難しくなっている。最先端の技術でないなら、ヨーロッパと日本からも代替品を見つけやすい。アメリカ以外の貿易相手との関係をうまく処理できれば、技術輸入の面では香港に大きな問題は起きない」としている。

③の香港ドルと米ドルとのペッグ制維持が難しくなるのではないかとの懸念は金融市場にくすぶっている。アメリカが香港政策法で定めた「優遇措置」の中に「米ドルと香港ドルの自由両替」という項目があり、これを見直す可能性が指摘されているためだ。

香港のドルペッグ制度は香港金融管理局(HKMA)が発行する香港ドルと同等の米ドルを発行保証資産として保有し、香港ドルと米ドルのレートを一定のレンジ(現在は1米ドル=7.75~7.85香港ドル)で固定するというものだ。これについて陳氏は「アメリカが1992年に香港政策法を成立させる前の1983年から続いているものだ。アメリカの同意や承認は必要ない」と断言している。

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