香港「国家安全法」めぐるトランプ砲は不発か コロナ禍に焦り制裁を連打するが「弾切れ」に

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李克強首相のブレーンである著名エコノミストの鐘正生氏は、「香港の金融システムが動揺すると、香港も大陸もアメリカも損をする。海外から大陸への投資、人民元の国際化、中国企業の海外からの資金調達などが影響を受ける」と指摘する。

香港では1300社以上のアメリカ企業と8.5万人のアメリカ人が活動している。香港ドルと米ドルのペッグが外れたら、これらの企業と個人の影響は非常に大きい。

一方、香港はペッグ制維持のために今年4月末時点で4412億米ドルもの外貨準備を持っている。他国のようにバスケット制に移行するためにその一部を放出することになれば、ドル市場の混乱は不可避とみられる。一方で、ペッグ制をやめたとしても金融政策を独自に行うように制度改正すれば、香港経済にとって決定的なダメージにはなるまい。

「雷鳴は大きいが雨は少ない」

鐘氏は「アメリカが香港の関税区としての地位を取り消すことはあるかもしれないが、米ドルと香港ドルの自由両替を中止する可能性はあまりないだろう」として、トランプ氏が打ち出した制裁について “雷鳴は大きいが雨は少ない”と総括した。

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中国外交に詳しい東洋学園大学の朱建栄教授は、トランプ政権が制裁を宣言する中で中国政府が国家安全法制の香港への導入を強行した背景には、「中国経済における香港のウエートが低下している現在、制裁の影響は限られるという判断がある」と解説する。また、これ以上に米中対立を激化させれば、1月の第1段階の貿易合意の履行も難しくなり、トランプ氏の再選戦略に影響するとも見ているという。つまりは、「トランプ砲」はもう弾切れだというわけだ。

次のカードとしては両院で可決済みのウイグル人権法案もあるが、中国側はトランプ氏の足元を見ている。香港問題と同様で、「トランプ砲」が中国を実際に動かすことは期待できそうもない。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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