そこに支援の手を差し伸べてきたのが中国です。
3月にセルビアの首都ベオグラードの空港に、中国から医療従事者やマスクなどの医療物資を載せたチャーター便が到着しました。
ブチッチ大統領は自ら空港まで出迎えに行き、「困ったときに助け合うのが真の友人だ。中国からの支援を忘れることはないだろう」と語りました。
このように、ヨーロッパが一致して反中国的になり、国際社会の中で中国が孤立するのかといえば、必ずしもそうでもないようです。事態はそれほど単純ではありません。
EU加盟国の中には、EUが何もできないことに失望し、中国への期待を高める国がセルビア以外にもあります。
とくに、モンテネグロなどバルカン半島諸国は、一帯一路で中国のインフラ投資を受け入れており、中国との関係を強化しています。
もっとも、マスク外交が全面的に成功しているわけではありません。
不良品が多く、オランダ保健省は3月末、中国から調達したマスク60万枚をリコールしたと発表しました。
スペインやトルコに届いた中国製の感染検査キットは精度が低く、返品したといいます。
この場合には、マスク外交は、かえって中国という国家への不信感を高めてしまったわけです。
このように、事態は混迷しているとしか言いようがありません。
コロナ後の国際関係は大きく変わる
新型コロナを最初に抑圧できたのは、中国です。その強権的な国家原理は、自由主義社会の基本原理と相いれません。では、コロナ制圧のためには、自由を犠牲にしなければならないのでしょうか?
そうではないでしょう。セルビアが中国の支援を歓迎したのは、援助が欲しかったからであり、中国の国家理念に賛同したからではないでしょう。
コロナ後の世界においては、対中批判が大きな趨勢になる可能性が高いと考えられます。
これまで述べたように、欧州各国は、新型コロナによる医療危機や経済危機を通じて、中国との関係を大きく変化させています。上述のように事態は決して簡単ではありませんが、概して言えば、英独仏のように中国に対する不信感を強める国が増えるでしょう。
『中国が世界を攪乱する』の「第12章 中国の未来」では、中国が未来世界の覇権国家になりうるか否かを問題とし、「中国は寛容性を欠くので、経済的にいかに強くなっても覇権国家にはなりえない」とするエイミー・チュア・エール大学教授の意見を紹介しました。
ここで述べたコロナをめぐる対応を見ていると、チュアの見解の正しさをますます強く感じます。
では、中国の孤立は政治的な関係にとどまらず、経済的な国際分業関係にまで及ぶのでしょうか?
中国の生産力に依存しない世界経済は考えられませんが、米中の貿易戦争、経済戦争が激しさを増すであろうことは、間違いないと思います。
こうした中で日本がどのような立場を取るのかを、はっきり決める必要があります。
少なくともWHOに対する姿勢は、はっきりと主張する必要があるでしょう。
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