今、県立大船渡病院で統括副院長を務める小笠原さんは、その後もやむことなく遠隔医療の重要性を発信し続けている。今春の日本産科婦人科学会では、最新の超小型胎児モニターを用いた緊急搬送のメリットについて報告した。移動中に急変した赤ちゃんがいたが、受け入れた大船渡の病院には胎児のデータがリアルタイムで届いていた。
救急車到着時には赤ちゃんを直ちに胎外へ出すための物の準備、人員の呼び出しが完了しており、スムーズに対応できた。岩手県はこの報告を評価し、「いーはとーぶ」でつながる公立病院すべてに公費で超小型胎児モニターを導入することを決定した。
感染病棟もある拠点病院の産科医として、小笠原さんは医師不足からも、東日本震災からも岩手の出産を守ってきた遠隔医療をコロナ対策にも応用しようと計画していた。
「1つは里帰りの妊婦さんへのオンライン妊婦健診です」
大船渡病院では、里帰り出産の妊婦は2週間自宅待機をしてもらってから来院してもらう。でも、妊婦はその間に何が起きるかわからないし、帰郷のタイミングによっては健診の間隔が開きすぎてしまう。
「コロナは長期戦」地元の妊婦にも対応必要
「胎児モニターを病院から宅配便で送り、あとはご自宅に血圧計と体温計があればスマホのビデオ通信で妊婦健診を受けていただけます。
また、コロナは長期戦ですから岩手県もこれから感染者が出て、増えないとも限りません。そうしたら地元の妊婦さんたちもオンライン妊婦健診を始めたいでしょうし、感染病棟に入った妊婦さんの健診にもオンラインの出番だと思います」
そう言う遠隔医療のベテランが今、楽しみにしているのは、若い医師たちが遠隔医療を積極的に使い始めたことだ。
小田切幸平さん(名瀬徳洲会病院産婦人科部長)は、奄美群島へ赴任して12年になる産婦人科医だ。群島は鹿児島県と沖縄県の中間にあり、5つの島がある。赴任して間もなく、本島から緊急搬送の患者を迎えに来た自衛隊のヘリコプターが墜落し、自衛隊員4人の尊い命が失われた。この事故に衝撃を受け、緊急搬送は極力避けたいと思っていた小田切さんは、8年前、小型胎児モニターを使い始めた。
これまでに約100例のハイリスク妊婦に病院から小型胎児モニターを貸し出し、毎日計測してもらってきた。産科医がいない島の診療所にもモニターがあり、妊婦が異変を感じたら、それを使って小田切さんのところへデータを送ることができる。
鹿児島の大学病院にヘリで島外搬送となった妊婦にも、小型モニターを着けた状態で乗ってもらった。
離陸後、「どこまでインターネット回線がつながるだろう?」と思いながら小田切さんはヘリから飛んでくる胎児の心拍を見守っていたが、中間のトカラ列島上空で少し途切れただけで、380キロある飛行区間の大部分において、最新モデルの胎児モニターは奄美大島と鹿児島の両病院へリアルタイムでデータを送り続けることができた。
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