コロナ禍が教えた「妊婦に遠隔診療が必要な訳」 医療過疎地域や離島の経験が今後の糧になる

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原さんは香川県などの助成を得てメロディ・インターナショナルという会社を作り、自身も顧問に就任して、香川大学との産学連携という形で開発を進めた。同社やそのメンバーたちは地域の電子カルテ共有ネットワーク構築、高性能小型モニター開発の2本柱で国内外の産科医療過疎地に周産期医療のIT化を提案し、意欲的な医師らと実証を重ねてきた。

スマホ並みに軽く小さい分娩監視装置(胎児モニター)。これにAIによる自動診断機能が付いて、妊婦が1個ずつ持つ時代も遠くないかもしれない(筆者撮影)

日本初のオンライン妊婦健診は、今から22年前の1998年に、当時、岩手県立釜石病院の産科部長を務めていた小笠原敏浩さんらが始めた。小笠原さんは、産科医療過疎が進む岩手県沿岸部、山間部の妊婦をどう守っていくのか悩んでいた。

この年は、「対面以外の診療は認めない」とした医師法第20条(昭和23年制定)の解釈が厚生省健康政策局長の通知で変わり、国が通信機器を介した診療行為を初めて認めた翌年にあたる。

岩手県立大船渡病院の小笠原敏浩さんはオンライン妊婦健診のパイオニア。医師が少ない地域で産む妊婦のため、22年も創意工夫を重ねてきた医師だ(筆者撮影)

産科医がいなくなった場所でオンライン健診

小笠原さんは、産科医療の集約化によって産科医がいなくなった遠野市の保健センターにCTGを送信できる試作機を置き、市の助産師との連携プレイでオンライン妊婦健診を実施した。これはダイヤルアップ回線を使用したもので、通信速度は毎秒64キロバイトという遅さだった。

その後、通信技術は急速に進化し、岩手県は、産科医療のICT活用で最先端を行く県となっていく。岩手県内全域の産科医療施設すべてと市町村保健師が妊婦の電子カルテを共有する周産期医療情報システム「いーはとーぶ」も誕生する。

このシステムが威力を発揮したのが、東日本大震災のときだった。岩手県陸前高田市は市役所が波にのまれてすべての住民情報を失い、たくさんの妊婦、親子が母子手帳を流された。だがそのデータは、盛岡にサーバーがある「いーはとーぶ」に残っていた。そして散り散りになった妊婦の安否確認や支援に大活躍したのである。全国の母子保健関係者が岩手県の快挙に注目した。

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