再建中に「悲劇」発生、マレーシア航空の多難 謎の航空機失踪事件で渦中の航空会社はどうなるのか
世界の航空機事故史上例を見ない、謎のベールに包まれたマレーシア航空機失踪事件。消息を絶っていたクアラルンプール発北京行きの同機について、マレーシアのナジブ・ラザク首相は「同機はインド洋南部で飛行を終えた」と発表。墜落を示唆し、「生存者もいない」と断定した。1カ月経った今も「物証」が確認されていないうえ、墜落原因調査の手掛かりとなるブラックボックスの電池期限もすでに切れ、迷宮入りになる様相もある。
乗客の過半の153人が中国人であり、中国政府当局は「(墜落の)根拠となった証拠と情報を提示するべき」とマレーシア政府を批判。ハリウッドスターの人気映画女優、チャン・ツィイーさんも、「マレーシア政府は情報を隠蔽している」とマレーシア製品のボイコット運動を呼びかけるなど、“反馬行動”は過熱する一方だ。
「エアアジア」が台頭
そんな中、3月25日、ボーイング社とマレーシア航空を相手取り、米シカゴの法律事務所が、イリノイ州地方裁判所に損害賠償請求の審議開始を申し立てた。「生存者絶望」の中、世界航空史上最大の賠償請求となる可能性が大きくなっている。
渦中のマレーシア航空は、国営投資会社「カザナ・ナショナル」が69%の株を保有するマレーシアのナショナル・フラッグ・キャリアー。1997年のアジア通貨危機を境に、深刻な経営不振が続き、同国発祥のアジア最大手の格安航空会社「エアアジア」との競争激化で近年、経営はさらに厳しさを増している。
経営陣は「日本航空の成功体験」をモデルに、4割にも及ぶ赤字路線の解消を図るなど経営再建に努めたが、2013年の赤字が11.7億リンギット(約374億円)に膨らみ、11年からの3年間の累計赤字額は約1300億円。15年までに黒字化する再建計画も停滞する中で、今回の大惨劇となった。「非常に大きな痛みを伴う悲劇だ」──今回の墜落事件についてアフマド・ジャウハリ・ヤヒヤCEOはこう語る。
恒常的な赤字の背景には、2万人という過剰な社員数がある。しかし、労働組合は強力な政治力をもって、人員削減を阻止。11年8月にはエアアジアが20.5%出資し合理化を進めようとしたが、組合が猛反対。政府が介入し、上場企業同士の資本提携を強引に解消させる異例の事態に発展した。
長年にわたる政府首脳とマレーシア航空の癒着も問題視されてきた。
機内で配られるピーナツをはじめ、多くの調達が縁故で決まる。元幹部社員は「機内食はアブドラ・バダウィ元首相の弟が関与する企業が25年契約で落札し今後10年は安泰」と明かす。マレーシアで発禁処分となった英誌『エコノミスト』(3月15─21日号)はマレーシアが香港、ロシアに次ぐ縁故資本主義のワースト3位と報じた。
野党指導者であるアンワル・イブラヒム元副首相は筆者との単独インタビューで「血税をむさぼる腐敗した政府系企業の筆頭だ」とマレーシア航空を名指しする。同社の前途は実に多難だ。
(撮影:ロイター/アフロ =週刊東洋経済2014年4月12日号<7日発売>「核心リポート02」を転載)
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