3密の「外国人収容所」で今、何が起きているのか コロナを懸念する女性に対する暴力沙汰も

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日本での非正規移民を取り巻く環境は厳しい。多くの国とは異なり、日本では入国管理当局が、非正規移民を無期限に収容できる体制になっている。実際、「送還可能なときまで」というほかに収容期間をめぐる法的規定はなく、何らかの事情で送還できなければいつまでも収容できる仕組みになっているのだ。あるアフガニスタン出身者は、国に送り返されるまで8年以上収容されていた。現在の最長収容者は6年以上収容されているという。

こうした中で、新たに被収容者の脅威となっているのが、新型コロナウイルスである。

8畳に最大5人が住む環境

「日本では、『3密』(密集、密閉、密接)基準が発表されると、収容所がこの条件をすべて満たしていることが明らかになった」と、牛久入管収容所問題を考える会を率い、茨城県・牛久にある同収容所を25年にわたって訪問する田中喜美子氏は話す。「牛久の居室は平均8畳の広さで、そこに最大5人が住む。ベッドとベッドとの距離は数センチしかない」。

駒井知会弁護士も、「今に至っても、多くの人が同じ部屋に住むという環境は変わっていない。また、外から出入りしている職員からの感染懸念もある」と話す。

収容所の医療体制も問題があることが以前から指摘されている。約10年前から非正規移民と医療施設を仲介するNGO北関東医療相談会の長澤正隆氏は、「私が最も懸念するのは、そもそも糖尿病や高血圧などを患うが収容中に適切な対応を受けられていない人々のことだ」と話す。糖尿病や高血圧による動脈硬化が新型コロナの重症化要因として指摘されていることは知られている。

現在の非正規移民の収容環境に対する危機意識は政府も持っている。入管庁は「入管施設感染防止タスクフォース」を設置して、「入管施設における新型コロナウイルス感染症対策マニュアル」を発行した。

入管庁は、同マニュアルにおいて仮放免を積極的に活用する方針を明確にしており、駒井弁護士によると、4月1日から5月7日までの間に約70人が牛久収容所から、40人が東京入管から解放された。

もっとも、仮放免の決定は完全に出入国在留管理庁の手に委ねられているため、実際にどのような基準が適用されているのか、あるいは基準自体がはたしてあるのか明確ではない。「品川では多くの非正規移民が一時的に仮放免されたが、基本的に母国に戻る意思を示しているかどうかによるようであり、収容期間が長すぎるといった人道的理由からではない」とこの問題に詳しいある弁護士は語る。

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