モンゴル帝国崩壊はペスト流行が一因だった⁉

「世界史のグローバル化」と感染症の深い関係

そうした条件の下で、歴史の波動をもたらしたのは、気候変動である。気候が寒冷になると、寒いところほど大きなダメージを受けるので、アジア北方の草原世界では、遊牧民が生存のため、南下移動を始めた。

それはもちろん農耕民にも影響を及ぼす。ローマの民族大移動、あるいは中国の三国六朝の大動乱などがすべて、この3世紀あたりから始まる寒冷化が引き起こした事態だった。

ところが10世紀あたりから、気候は温暖化に転じ、遊牧民も農耕民もかつてない活気を帯びてくる。草原ではトルコ系遊牧民の活潑な移動、中国では「唐宋変革」といわれる技術革新・生産拡大が見られ、それにともない、商業もさかんになっていった。ユーラシアの東西にわたって、ローカルな集団が勢力を増し、政治的には各々自立し、互いに対抗するという史実経過も、そうした情勢の所産である。

モンゴル帝国の崩壊とペスト流行

その一方で、分立し相剋を繰り返す遊牧、農耕の諸集団を1つにまとめようとする動きも、東西で起こっていた。その集大成に位置するのが13世紀のモンゴル帝国である。遊牧・農耕の二元構造と「シルクロード」の交通など、多元的な要素の統合を達成し、遊牧民は軍事・政治を、農耕民は物づくりを、その境界にいる人たちは商業・金融を担当した。

こうした分業・分担は、それまで往々にして提携がうまくいかず、そのまま分立相剋する形勢になってしまっていた。それが1つにまとまったわけである。

史上空前の広大な勢力圏を誇ったモンゴル帝国は、その全域に通用するインフラを構築していった。例えば、シルクロードの幹線を中心に「ジャムチ」という駅伝施設を置いて、交通・通信・物流ルートを整備した。また紙幣発行を基軸とした通貨制度を軌道に乗せ、金融・決済インフラも整えている。

こうして、ユーラシア全体を覆う経済圏・交通圏が出来上がり、一種の世界の一体化・グローバル化が実現された。太古以来のアジア史の到達点・集大成であり、またグローバルな世界の始まりとも言える。

ところが、そのシステムは永続しなかった。14世紀になると、気候がふたたび寒冷化に転じたからである。それまでの温暖化は、遊牧民・農耕民の行動を活潑にし、生産・交通・商業を活性化させ、モンゴル帝国を成り立たせた前提をなす初期条件であった。それが失われたのである。

しかも、ひとまず世界を一体化するシステムが出来上がっていたから、未曾有の混乱をも招来した。ユーラシア規模の交通・交易網はズタズタになって、各地の経済は孤立萎縮して、一大不況に見舞われる。モンゴル帝国はそのなかで崩壊していった。

この時期の人類史的な苦境は、つとに「14世紀の危機」として知られている。もともとは西洋史の概念であって、とりわけヨーロッパで著名なのが、黒死病やペストの蔓延、つまり感染症にほかならない。

それがモンゴル帝国で起こった「パンデミック」だったことは、ほぼ定説である。詳細はまだまだ検討の余地がありそうだが、中央アジアないし中東で発生した感染症が、その交通・物流インフラを伝わって東西に広まり、ヨーロッパばかりにとどまらないユーラシア規模の災厄をもたらした。

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