人類はこれまで、さまざまな疫病を経験してきたが、疫病に見舞われた後には何が起こったのだろうか。
黒死病と恐れられた「ペスト」に襲われ、多数の人が亡くなったあとの西欧では、実質賃金が2~3倍に跳ね上がり、労働者が肉とビールの夕食をとるようになる一方で、地主は体面を保つのに必死だったという。
古代史を専門とし『暴力と不平等の人類史』を上梓したスタンフォード大学教授のウォルター・シャイデルは、「戦争・革命・崩壊・疫病」という4つの衝撃を中心に古代から現代までを分析している。中世ヨーロッパの労働者の生活は、疫病の感染爆発後、どのように変化したのか。今回、『暴力と不平等の人類史』から一部抜粋してお届けする。
ペストで一変した世界
1350年にはペストは地中海沿岸に広がり、翌年には、一時的であれヨーロッパ全土を衰退させた。
経済学者のパオロ・マラニマによる最新の推定によれば、ヨーロッパの人口は1300年の9400万人から、1400年には6800万人に落ち込んだ。減少率は25%を超える。
特に落ち込みがひどかったのがイングランドとウェールズで、ペスト前に600万人近くあった人口のほぼ半分が死亡し、18世紀初めになってやっとペスト前の水準に戻ったのだ。
イタリアも落ち込みがひどく、住民の3分の1以上が死亡した。
黒死病の影響が甚大だったことは疑う余地がない。歴史家イブン・ハルドゥーンは普遍史に関する著作でこう書いている。
東西の文明は破壊的な疫病に見舞われた。この病は国家を荒廃させ、国民を死へ追いやった……人間が住んでいた世界全体が一変した。
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