経済史家のロバート・アレンと共同研究者の尽力により、今では熟練・非熟練の都市労働者の実質賃金を示す長期的な時系列のデータが数多く手に入る。このデータは時に中世にまでさかのぼり、時空を超えて体系的に比較できるよう標準化されている。
賃金が上昇し、肉を多く食べるようになった労働者たち
ヨーロッパとレヴァント地方の11の都市で記録された非熟練労働者の賃金の長期的傾向から、明確な全体像が読みとれる。ペスト発生前の賃金がわかる少数のケース(ロンドン、アムステルダム、ウィーン、イスタンブール)では、ペストの流行以前は賃金が低く、その後急速に上昇している。
実質所得は15世紀初めから半ばにかけてピークに達している。この時期、ほかの都市でも同様のデータが残されており、やはり賃金上昇の動きが見られる。
14都市の熟練労働者の賃金についてもほぼ同じ構図が浮かび上がる。データが得られた地域では、ペスト発生の直前から15世紀半ばまでに人口の変化と実質所得には際立った相関関係がある。調査対象となった全都市で、人口が最低になった直後に実質所得がピークに達したのだ。人口が回復してくると賃金は減少に転じた。多くの都市で、1600年以降は人口が増え続けて実質所得は下がる一方だった。
地中海東岸でも同様の結果が見られる。黒死病の発生後、期間はヨーロッパより短かったものの、人件費が急騰したのだ。歴史家の アル=マクリーズィーはこう述べている。
ペストの犠牲者からの遺贈や、遺産相続した生存者からの寄贈に支えられ、宗教的、教育的、慈善的寄付が急増した。おかげで、人手不足にもかかわらず建設工事が推進され、職人は非熟練都市労働者とともにわが世の春を謳歌した。
生活水準が一時的に向上したおかげで、肉の需要が押し上げられた。14世紀初めの所得と物価の内訳によれば、平均的なカイロ市民の1日の消費量は1154カロリー(タンパク質 45.6グラム、脂肪 20グラム)と控えめだったが、 15世紀半ばには1930カロリー(タンパク質 82グラム、脂肪45グラム)が摂取されるようになっていた。
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