モンゴル帝国崩壊はペスト流行が一因だった⁉ 「世界史のグローバル化」と感染症の深い関係

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当時のペスト・黒死病がアジアから到来し、まずイタリアに上陸、深刻な打撃を与えてヨーロッパに蔓延したのは、今回のコロナウイルスにも酷似する経過である。どうやらこのあたりから、現代につながるグローバルな歴史段階に入ったといってもよい。

もっとも、アジア史的な展開がほぼ世界史に等しかった時代は、このあたりで終焉する。15世紀末以降はいわゆる大航海時代で、西半球・「新大陸」も含んだ文字どおりの、新たな「グローバル」な歴史になった。そこで急速に勢威を拡大したヨーロッパが主導する近代に入っていくのである。

近現代の感染症とグローバル社会

そしてその新しいグローバル時代は、やはり新しい感染症の蔓延をもたらす結果ともなった。海を越えた急速な流行である。例えばジフテリア・マラリア・梅毒は、ユーラシア・アメリカ・アフリカの3大陸で交換されて、地球規模で広がった。

さらに19世紀、ヨーロッパ帝国主義の世界制覇とともに、感染症の流行は繰り返し起こっている。日本人にも有名なのは、開国以前の1822年に流行したコレラであろうか。

コレラはもともとインド・ベンガルの風土病だったものが、1817年に突然、感染症として大流行した。5年で日本に伝わったのだから、たいへんなスピードである。のちにロンドンで蔓延したコレラの対策から、公衆衛生の概念と学問が出来上がっていった。

以後、近現代の人類史は、感染症と背中合わせである。ワクチンの開発など、対抗する医学は日進月歩ながら、ウイルスは突然変異で流行するから、イタチごっこの様相と言えなくもない。その1つの帰結が、目前のコロナウイルスの災禍なのだろう。

顧みれば、温暖化とグローバル化の末に起こったモンゴル時代の「パンデミック」は、アジア史の終焉と新しい時代をもたらした。歴史の繰り返しはありえないながら、どうも類似するプロセスをたどるコロナの衝撃も、いまのグローバル世界をやがて一変させるのであろうか。

歴史はわれわれ自身が手づから作るものだとはいえ、こればかりは神のみぞ知る未来なのかもしれない。

岡本 隆司 京都府立大学文学部教授

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おかもと・たかし / Takashi Okamoto

1965年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。『属国と自主のあいだ』『明代とは何か』『近代中国と海関』(共に名古屋大学出版会)、『世界史とつなげて学ぶ中国全史』『中国史とつなげて学ぶ日本全史』(共に東洋経済新報社)など著書多数。

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