賃金債権の消滅時効が5年でなく3年になった訳 民法改正めぐり労使で繰り広げられた綱引き

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意外なことに議論は難航した(写真:makaron*/PIXTA)

民法(債権法)改正にともない労働者の賃金債権の消滅時効期間を、「当分の間」は「3年間」とする改正労働基準法が、2020年3月27日の参議院本会議で可決・成立し、4月1日から施行された。

民法では「5年間」であるのに、労働者の残業代請求権などの賃金債権だけがなぜ「当分の間」「3年間」なのか疑問に思われるかもしれない。

この問題をめぐっては、改正法が成立するまで労使の間で激しい議論があり、最終的な結果として、いわば妥協的な形での改正法成立となった。

今回、賃金債権の時効期間の何が問題かを理解するには、民法および労働基準法の制定の経緯や今回の民法改正(債権法改正)の内容等のいくつかの基本的な考え方を理解する必要がある(ので少々込み入っていると思われる)。

もともとは賃金債権の時効は2年だった

消滅時効とは、一定の金銭を請求できる権利(債権、請求権)があっても一定の期間を経過すると権利が消滅してしまう制度のことをいう。

どうして消滅時効という制度を法が定めているかについては諸説あるが、伝統的には「権利の上に眠る者は保護しない」という古くからの法格言があるように、権利があってもそれをいつまでも放置していた場合には法(裁判所)はその権利行使を手助けしないとの考え方に基づいている。

そして、労働契約上の賃金債権については、労働基準法という法律で消滅時効の期間が2年と定められていた。

ここから、不払いの残業代を請求する場合には、「過去2年分までしかさかのぼれない」ことになっていた(労働基準法115条)。

では、そもそも、労働基準法はどうして賃金債権の消滅時効を2年と定めていたのか。

このことを理解するには、まず、民法ではどうなっていたかを知る必要がある。なぜなら、労働基準法は民法の特別法であり、民法で規定されているルールを労働者保護の観点から特別に変更しているという構造になっているからである。

民法上、もともと金銭の支払いを求める請求権(債権)は、原則、10年間権利行使しないと時効によって消滅すると定めているが、一定の債権については例外的に短期(1年間)で時効によって消滅する規定を設けていて、その中に雇用契約に基づく「使用人の給料に係る債権」も規定されていた。

しかし、1年で給料に関する債権が消滅してしまうのはあまりにも短く、労働者の保護の観点から1年を2年に延長したのが改正前の労働基準法115条である。

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