賃金債権の消滅時効が5年でなく3年になった訳 民法改正めぐり労使で繰り広げられた綱引き
つまり、民法上は1年であった賃金債権(使用人の給料に係る債権)を労働者保護の観点から特別に2年にしたのが労働基準法の考え方である。
民法は、「民事基本法典である民法のうち債権関係の規定について、同法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り、国民一般にわかりやすいものとする等の観点から、国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う必要がある」との観点から、契約などにまつわる債権法について制定以来約120年振りの大改正が行われ2017年に成立した。
その中で債権の消滅時効に関しては、原則として、すべての債権について「権利を行使することができることを知ったとき」から5年間その権利を行使しないときは時効によって消滅すると定められた(改正民法166条1項)。
そして、これまでの民法で規定されていた「使用人の給料に係る債権」は1年間で時効消滅するという規定を含む短期消滅時効の規定が一律削除されてすべての債権は上記の規定で原則5年間の消滅時効期間となった。
賃金債権の消滅時効期間はどうなったのか
民法が、これまで「使用人の給料に係る債権」=「賃金債権」は「1年間」で時効消滅すると規定していたことを踏まえて労働者を保護する観点から賃金債権については特別に「2年間」としたのが労働基準法の考え方であった。
そうであれば、民法が改正されて消滅時効の期間が一律「5年間」となったのであれば、労働基準法が定める賃金債権の消滅時効の期間を、最低でも「5年間」としても何も不思議はない。
ところが、意外なことに議論は難航した。
それは、使用者側から改正される民法に合わせて賃金債権の時効期間を5年間にすることに反発する意見が出されたからである。
民法改正に対応させるための労働基準法の賃金債権の消滅時効の在り方について、2017年12月26日より厚労省「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」にて労働法学者等の専門家による検討が行われ、2019年7月1日に「賃金等請求権の消滅時効の在り方について(論点の整理)」と題する報告書が発表されたが、両論併記という形でまとめられ、労働政策審議会(労政審)の議論に委ねられた。
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