世界の経営理論に「ビジネスモデル」がない理由 持続的繁栄には「センスメイキング」が不可欠

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井上:そういう腹落ち感でいうと、私の本で紹介したスノーピークの社員はみんなキャンパーなので、キャンプの価値観、自然に対する向き合い方、必要な準備がわかっていて、だから経営ではこれが必要だという考え方をします。社内の雰囲気はいいし、一丸となっている空気があって、面白いですよ。

入山:そういうのが前提にあり、結果的にみんなの方向が揃っているから、気づいたらたぶんビジネスモデルも、一見突飛なように見えるけど、面白い仕組みが出てくるのでしょうね。

井上:理念や仕組みで維持しようとする場合、少数の細かいルールで縛っても、仕組みはいい感じで進化していかないように思います。官僚制がどんどんできていくばかりで。「これだけは守る」という基本原則や、経営者が日々語っている一言のほうが重要です。

例えば、京都では歴史的に、絶対に競争してはいけない、地域に迷惑をかけてはいけないという不文律があり、それが棲み分けにつながり、新しいものをつくろうというチャレンジ精神を育んだと言われています。だから、仕組みづくりのためのプロセス、ルールは面白いと思います。

入山:本当に重要なことですよね。特に日本では、そういうものが現場レベルではあっても、会社の理念になると方向感の腹落ちがすごく弱く、すぐに目先の収益の話になってしまう企業も多い。

ビジネスモデルを考えるときも、どうやってお金を落としてもらえるかではなく、そもそもどうしたらこのビジネスモデルで、経営理念でいう社会問題を解決できるのかを考えることが必要なのでしょうね。まさに自らのビジネスの意味づけ、センスメイキングをすることが大切だということでしょう。

「センスメイキング」×「ビジネスモデル」

井上:ビジネスモデルは価値の創造と獲得です。相手にもメリットを与えて、こちらもメリットを得て永続する。これは誘因と貢献で、本当は協力し合えないようなパートナーや取引先と一緒に価値を生み出して大きなことをやろうという、マネジメントの基本です。そう考えていくと、入山さんの言うセンスメイキングの話にもつながりますね。

継続的に儲けるための仕組みづくりの大事なキーワードとして、出てくるのがセンスメイキング。収益モデルの設計というのは、ある意味で技術ではあるけれど、理念なき技術は危ういとも言われます。入山さんの本の第23章(センスメイキング理論)をもう一度読み直しますね。

入山:ありがとうございます(笑)。

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井上:入山先生の本でセンスメイキングを読んだ後で、私の本でスノーピークのビジネスモデルを読んでもらうとよいかもしれません。そして、「自分にとってビジネスモデルは何か」と問いかけてみる。

入山:自分の夢や願いを全うするという意志は、日本の会社に足りないですよね。井上さんの本の中でそういう話が出てくるのは第3章、意志の話は第12章。となれば、私の推奨としては、井上さんの本は第1章から読むよりも、まず第3章「ビジネスモデルを学ぶ意義」を読むのがいい読み方かも。

井上:2冊をセットで読み比べて、具体と抽象を行き来させるとよいのかもしれません。合わせると1300ページになってしまいますが(笑)、私も読み直してみます。

(構成:渡部典子)

井上 達彦 早稲田大学商学学術院教授

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いのうえ たつひこ / Tatsuhiko Inoue

1968年兵庫県生まれ。92年横浜国立大学経営学部卒業、97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)取得。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教授などを経て、2008年より現職。経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェロー、早稲田大学産学官研究推進センター副センター長・インキュベーション推進室長などを歴任。「起業家養成講座Ⅱ」「ビジネスモデル・デザイン」などを担当。主な著書に『ゼロからつくるビジネスモデル』(東洋経済新報社)、『模倣の経営学』『ブラックスワンの経営学』(日経BP社)などがある。

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入山 章栄 早稲田大学ビジネススクール教授

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いりやま あきえ / Akie Iriyama

1972年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年にピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーを経て、2019年より現職。専門は経営戦略論、国際経営論。著書に『世界標準の経営理論』などがある。

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