世界の経営理論に「ビジネスモデル」がない理由 持続的繁栄には「センスメイキング」が不可欠
入山:いろいろな企業を見てくる中で、「このビジネスモデルは面白い」と思ったものはありますか。
井上:やはり公文教育研究会のモデルでしょうか。イギリスのソーシャル・インパクト・ボンドの調査を行い、そこから認知症患者の学習療法に応用して展開するなど、面白いですね。それに、すぐに儲けようと短絡的な考え方をしていない。
ビジネスモデルを設計しようとする中間管理職は、収益モデルばかりにこだわりますが、それではお客さんは誰か、どんな価値を提供するのかという点を忘れてしまう。
その点、公文のグローバル化を進めてきた歴代の社長も、スノーピークの山井太社長も、自分の実現したい世界を実現させるために一生懸命やってきたら、こういう仕組みができていたという展開になっています。
入山:いい会社のいい経営者はたいてい、長期目線で社会にどう影響を与えるかをつねに考えていますよね。私の本で紹介しているのが「センスメイキング」の理論です。
実は、イノベーションに関する講演をするときに、私はいつも「最も日本に足りていないのがセンスメイキングです」と話しています。目先で考えると収益に向かい、いわゆる経営学で言う「Exploitation(深化)」になる。「Exploration(探索)」を続けるには、会社の長期の方向感について腹落ちすることが重要です。
井上:長期的に繁栄する仕組みをつくろうと思ったときの発想や考え方として、すごくこだわる準拠点を意識して、理念をしっかりと持てば、自然にできあがっていきますよね。ビジネスモデルづくりは一朝一夕にはできなくて、持続的に収益を上げる仕組みとなると10年がかりだったりします。そこに一貫性を持たせるのが理念ではないでしょうか。
グローバル企業が用いる腹落ちの仕組み
入山:日本でファミリービジネスが強いのは、経営者が方向感について腹落ちがあるからだと思います。いい経営者は30年くらい先のことまでを見て、会社の方向感に自分が腹落ちしています。
しかも、ファミリー企業の場合は、経営者があっちへ行けと言えば、みんながそっちへ動く。だから、長い目で見ると業績もいいというのが、私の理解です。その一方で、日本の同族企業の弱点は、この作業を経営者1人が自分だけの脳内でやっていること。自分は腹落ちしていても、引退した後、たぶんその腹落ちが会社に残らないことも多い。
では、優れたグローバル企業はどうしているかというと、それを仕組みで入れています。例えばデュポンには100年委員会とでもいうべきものがあり、経営幹部が年に1度集まって、専門家も呼んで100年後の未来を死ぬ気で考えて、腹落ちさせるプロセスを実施しています。シーメンスもメガトレンドとして30年先について考えています。
日本企業が「青臭い」とバカにするような会社の方向性やビジョンの腹落ちの刷り込みを、実は優れたグローバル企業は一番大事にしている。そこが日本企業との決定的な違いだと思います。