世界の経営理論に「ビジネスモデル」がない理由 持続的繁栄には「センスメイキング」が不可欠

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私の師匠の加護野忠男先生(神戸大学名誉教授)も伊丹敬之先生(国際大学学長、一橋大学名誉教授)も『ゼミナール経営学入門』の中で、「経営の神髄は矛盾のマネジメントだ」と書いています。

矛盾というのは、複数の要素があり、ここの組織を正常化すれば、別のところで別の問題が起きるからです。そして、これに絶えず直面するのが経営者だ、と。だから経営者は複数の視点から同じ現象に切り込んで、総合的に判断しなければならないというのです。

入山:私も、そのとおりだと思います。

井上:それを特に強く感じたエピソードがあって。以前、私が広島大学で社会人教育を行っていたときに、子会社を垂直統合するのか、自由に活動できるよう独立させるかを考えるケースをつくりました。

井上達彦(いのうえ たつひこ)/早稲田大学商学学術院教授。1968年兵庫県生まれ。92年横浜国立大学経営学部卒業、97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)取得。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教授などを経て、2008年より現職。経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェロー、早稲田大学産学官研究推進センター副センター長・インキュベーション推進室長などを歴任。主な著書に『模倣の経営学』『ブラックスワンの経営学』などがある(撮影:梅谷秀司)

取引コストの観点でどう判断すべきかという問いを立てたので、学生たちはコストや情報の非対称性を中心に議論しましたが、終盤で実際に会社を経営している受講生が「これはこうすべきだ」と指摘したのです。多面的な視点で問題を捉えていたので、すごく説得力があり、みんなも納得しました。

ビジネスモデルもそれと同じで、事業の仕組みとか、収益をあげる仕組みを議論するなら、多面的に見ればいい。1つのディシプリンや構成概念で定義するのではなく、戦略、製品開発、イノベーションと同じような形で見ていけば、何とかなるのではないかと私は思っています。

例えば、起業家がどうやって発想しながら、ビジネスを起こすのか。異業種の例を参照しながらつくっていることがわかれば、事業創造にはそういう方法があるとわかる。そういう努力を積み重ねれば、ビジネスモデルとしての研究は十分に成り立ちます。

入山:そういう意味では、たぶん私の『世界標準の経営理論』が目指しているところも同じですね。特定の理論だけを見るのは学者の仕事なので、学問としてはそれでいいのですが、実務は多面的に見る必要がある。

だからビジネスパーソンは特定の事象でも、経済学ディシプリン、心理学ディシプリン、社会学ディシプリンの理論を総合的に踏まえて、全体で考え、意思決定しないといけない。

ビジネスモデルは卵か鶏か? 

入山:例えばアメリカのウォルマートのビジネスモデルは非常によくできたものですが、それは事後的にそう見えるだけで、現実には、いろんな企業のアイデアを模倣していくうちに、結果的にできあがったものと言われています。

そういうビジネスモデルのつくり方のほうが役に立つのか。それとも、模範的なビジネスモデルを置いて、この部分はこのメカニズムを入れようとか、演繹的に考えるべきなのか。井上さんはどうお考えでしょうか。

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