コロナ後に「ニューディール政策」復活の可能性

岩井克人「新古典派経済学」超克の野望、再び

ケインズ経済学と古典派経済学が経済学の双璧であるならば、ケインズ経済学をヴィクセル的な原理で数理的・ミクロ的に基礎付けた『不均衡動学』は、アダム・スミスの「神の手」の数理的・ミクロ的基礎付けである「一般均衡理論」と(少なく見積もっても)双璧をなす存在である。

歴史的・経緯的に一般均衡理論は多数の経済学者によって理論的に確立されてきたが、もう一方の不均衡動学に関しては、理論的先達はあるにせよ(「日の下に新きものなし」と岩井氏は言うかもしれないが)岩井氏1人が7年の歳月をかけて成し遂げたのである(1980年)。

経済学界は「新古典派にあらずんば経済学者にあらず」

控えめに見て、経済学の世界の基礎の半分を作った岩井氏は、ただ、自身では「傲慢でした」と当時を振り返る。

「ナイーブにも独自の理論を構築し、その主流派である新古典派経済学の世界をひっくり返そうという野望を持っていました。この理論が世に出れば新古典派経済学はおしまいになると、意気込んでいたのです」(『経済学の宇宙』156ページ)

成し遂げたことの大きさを考えれば、それでも十分すぎるほどの謙虚さだと(とくにアメリカのモデラーたちと比べればなおさら)私には思えるが、それほどアメリカでは新古典派が主流派として盤石だったということでもあるだろう。

事実、アメリカではケインズ経済学は新古典派の“不況時のオプション”として扱われることが多く、ケインズとその直弟子たちの「新古典派こそがケインズ経済学の中の非常に特殊なケースでしかない」という世界観とは根本的に相いれないところがある。

そのような環境では、岩井氏の功績は感情を逆撫でするものだろうということも想像にかたくない。しかも数理的基礎においてその堪能さを自負する新古典派であるからこそ、その拠り所が数理的基礎によっておびやかされるという事態に、事実や真実を尊重する学術の世界の住人だとしても容易には耐えられないだろう。しかも相手はたった1人である。

「しばらくして、いくつかの専門誌に書評が載りましたが、その多くは敵意に満ちたものでした。」(『経済学の宇宙』158ページ)
次ページ時代の逆風「ケインズ革命と反革命」
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