実際、ワシみたいに名古屋で産まれ育った人間からしても観光の魅力がある街やとは思わん。せめてうまいものがたくさんあれば違うけど、ほかの地域から来る人は「名古屋は飯がマズイ」と思っている人が多い。
お客さんにも「名古屋はB級グルメが多くて、味付け濃すぎて舌に合わない」なんて言われることも多いな。失礼なこと言う奴や、とは思うけど、こっちも「ひつまぶし食べてください」くらいしか言い返せへん(笑)。
昔は赤提灯の安くてうまい名古屋コーチン出す店とか、500円くらいで腹いっぱい食える喫茶店があったけど、今は若い子向けの洒落た店かチェーン店ばっかりになってしまって面白みがなくなったわ。
あとは、よく言われるのが「名古屋は道が広いですね」ということかな。その通りで道も広くて覚えやすいし、ドライバーにとってはいい街や。個人的な意見だけど、名古屋人は見栄っ張りな性格やけどせっかちやから。ほかの地域と差別化する意味でも、こういう道路になったと思うな(笑)。
この街は困ったらトヨタに頼るしかない
――名古屋は“トヨタ一本経済”と揶揄されるほど、1つの企業が町の経済に影響を及ぼし、また人々の生活を支えている面もある。その点でも名古屋という地域の特殊性を表しているが、大企業の存在はタクシー業界にどのような影響を与えているのか。
岡村さん:ほかの地域から来た人は、名古屋は景気が良くて羨ましいなんていうけど、ワシらの感覚やと全然そんなことない。錦の街を見たら、だいたい名古屋の経済が理解できる、というのがワシらの認識。
錦は高級クラブが集合していて、東京でいう銀座みたいな場所で、通称キンサンって呼ばれている。それだけ金を生む場所という意味もあるみたいで。今はクラブ以外にも風俗とか、いろんな業種が入り乱れる地域になったけどね。やっぱり財界人や著名人は錦で呑む。
ただ、トヨタさんは、堅い会社で意外と経費が厳しい。社員もたびたび乗せているけど、そういう細かい所まで目を配らせ、堅実経営だからこそ大きくなったとも話していた。だから、トヨタさんはあまりタクシーチケットを切っていない。スケールからすると、圧倒的に少ない。
名古屋でタクシー利用が多い業種でいうと、商社、製薬会社、紡績会社、メーカーが多いですよ。でも、結局この街の経済は困ったらトヨタさんに頼るしかないわけ。これまでもそうでしたが、それは今後もそうでしょう。
名古屋のタクシー業界は、ここ10年はよくも悪くも低い水準で安定していた。ただ、コロナでその安定神話も崩壊して、もはや壊滅的な状況。先が見えない不安があって日々働いているけれど、現にお客さんは6割以上減っているから……。
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