――個人タクシーの許可が与えられるのは、原則会社に所属して10年間無事故無違反という厳しいハードルを越える必要がある。元来マジメな性格と話す海野さんは、最短で個人タクシーのドライバーになった。当初は六本木や新宿、渋谷などの繁華街を拠点としたが、現在根を張るのが人形町。この町が持つ独特の魅力に惹かれているのだという。
海野さん:この仕事をし始めてから嫌いになった町が、繁華街の六本木と新宿。この前、人形町から六本木まで届けた後に乗ってきたお客さんが千葉の市川まで行ってくれと。その道中に、道が違う、急げと恫喝されて僕もビビってしまって。
「お客さん頼むからあんまり言わないで。ビビって手が震えて運転できなくなるし、事故しちゃうから勘弁してよ」と懇願しましたよ。
あとは繁華街だと男女の情事がタクシー内で行われることも珍しくない。基本は見て見ぬ振りをするしかないのよ。最初は「お客さん、ドライブレコーダーに映っていますよ」ということが多い。それでも聞かない人には、「ホテルでも行きな、ここはタクシーだよ」と注意する。誰だって本当はそんなことは言いたくないよ。繁華街を私が意図的に避けるようになったのはそういう理由からです。
人形町は、すごく乗車マナーが良い。東京でも有数だと思う。だから人形町というのもあるし、もともとタクシーチケットが多かったエリアだったという計算もある。この街は大きい企業のサラリーマンが割と少人数で飲む街だから。財閥系の商社や不動産関係の人が占める割合が高いかな。埼玉や千葉、神奈川など県外まで長距離で帰る人も少なくない。
オリンピックがあっても何も変わらない
もう1つは、この街で乗せるお客さんはほとんど中国人がいない。差別する意図はまったくないけれど、彼らはコロナの騒ぎでも1月2月までマスクをしていない人が多かったし、言葉も通じないからこっちも怖くて。
もちろん、訪日観光客を乗せないと仕事は年々悪くなっていて、ドライバーを始めてから今年がいちばん悪い。2017年ごろまではまだ良かったね。今年は、東京五輪が近づいて盛り上がっていたけれど、私たちの仕事や、庶民の生活は正直なところ何も変わらないのは間違いないから。
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