タクシー運転手70歳男性が述懐する仕事の功罪 流転タクシー第1回、彼が18年続ける理由

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――夜の7時から、朝の5時までが海野さんの勤務時間だ。個人タクシーの運転手になってからきっちり週5日、規則正しくリズムを崩すことなく働くスタイルを8年間続けてきた。時には暴言を浴び、酔っ払いに絡まれることなどは日常茶飯事。それでも、ドライバーの仕事に誇りを持ち、この仕事を選んだことに後悔はないと胸を張る。

海野さん:だいたいの人は、マナーも良くてお酒を飲んでいるから寝ちゃう人が多いね。

ただ一部のお客様からは、“たかがタクシードライバーのくせに”みたいな態度も受ける。結構多いのが「前はこの料金で行けたから、ここまでこの値段で行ってくれ」と無茶苦茶に安い金額を要求されること。そんな金額なら僕ら食べていけませんよ、と伝えると、逆ギレして「ドライバー風情が俺に口答えするな!」と言われたこともありますから。そういうふうに、私たちを見下す人も少なくない。そういうときは、みんな仕事でストレスが溜まっているのだなと、グッと堪えます。

1日でだいたい8~15人くらい乗せて月の売り上げは平均して70万円程度。そこからガソリン代や保険、組合費などが引かれて手元に残るのは30万を切ってしまう。1日で7万売り上げる日もあれば、1万を切る日もある。決して稼げる仕事ではないし、安定からもほど遠い。努力や頑張りがなかなか売り上げに繋がらないし、結局はほとんどが運。頼れるのは自分の感覚だけ。

頑張ったからって良いお客を選べないし、客引きもできないから、待ちの仕事です。会社に所属している時は、頑張っても給料が20万だった。辞めようと考えたこともありますよ。個タクになってからは、収入は良くなったけど結局は肉体労働だから。

些細なことでも僕にとっては幸せなこと

それでも、タクシードライバーになって良かったと思うこともたくさんある。私ね、50過ぎるまでは独り身でね。出張も多く生活も不規則で女性にからきし縁がなかった。それがこの仕事になってから、女房が出来た。仕事終えて朝6時に帰宅するとカミサンが朝飯作って待っているわけ。それで一緒に朝の情報番組を見ながら飯を食べて、仕事にいくカミサンを見送っています。世間から見れば些細なことでしょうが、僕にとってはいちばんの幸せですよ。

お客さんの中には僕のことを気に入ってくれて、配車を毎回頼んでくれる人もいます。ある日、なぜ私のタクシーを、と聞いたことがありました。すると、「海野さんの気遣いや何気ない会話が心地いいんです」と言われた時は、この仕事をしていて良かったと思いました。個タクは75歳が定年。家族もいるので、あと4年は勤めるつもりです。辞めた後のことは考えてないね、そんな先のことは何も考える余裕もないですよ。

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