アビガンに期待する人が押さえておきたい裏側

奇形児発生の副作用、投与なら早めに慎重に

アビガンはもともと富士フイルムホールディングスに買収された旧富山化学が1990年代後半から開発してきた薬剤だ。抗菌薬、炎症性疾患、神経系疾患の領域を対象に、新薬のタネを探していたところ、たまたまインフルエンザに活性のある(インフルエンザウイルスに作用する)化合物を見つけた。それが開発コード「T-705」、のちのアビガンだ。

T-705は当初から大きな期待を背負っていた。代表的な抗インフルエンザ薬「タミフル」が細胞内で増殖したウイルスを外へ出なくさせる作用機序(作用メカニズム)を持つのに対して、アビガンは「RNAポリメラーゼ」という酵素を阻害することでウイルスの増殖そのものを防ぐ、今までにない作用機序であるためだ。原理上は、遺伝子変異が起きず、耐性ウイルスを生じないといわれている。2000年にカナダで開催された国際会議では、アビガンがインフルエンザのほか、既存の抗インフルエンザ薬の耐性ウイルスにも有効性があったことを示した。

T-705が発表されてしばらくの間、この新薬候補は将来の売り上げが1000億円を超す大型製品になると目されていた。ところが開発がストップしてしまう。

開発資金の不足とタミフルの先行

理由の1つには開発資金の不足があった。当時、富山化学が販売していた脳梗塞後遺症治療薬「サープル」の有効性が否定され、全品が回収に追い込まれていた。2つ目の理由として、ライバル薬として1999年にアメリカで承認されたタミフルがすでに世界中で使われ始めていた。T-705はヒトを対象とした試験がまだであり、薬剤として世に出るには数年先になってしまう。その間にタミフルが市場シェアを押さえてしまえば、挽回するのは容易ではなかった。さらには、動物実験段階で「催奇形性」の副作用のリスクがあった。

催奇形性とは、妊婦のお腹の中にいる胎児に障害が出る、薬剤にとっては致命的な副作用だ。抗がん剤などの中には催奇形性のある薬剤があり、妊娠の可能性のある世代には厳重な管理が求められている。それでなくとも「催奇形性」というだけで敬遠されがちだ。複合的な理由が重なり、開発は中止された。

だが、しばらくして転機が訪れた。2004年ごろから、鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染して死亡する事例が世界的に多発したのだ。世界保健機関(WHO)も、事態を受けて「ヒトへの感染が広がり続けると、新型のインフルエンザウイルスが出現し、世界的な感染爆発に発展する可能性が高まる」との警告を始めた。日本でも病原性の高い鳥インフルエンザウイルスが新型インフルエンザウイルスに変異した場合、致死率は高くなるのではないかとの一部の専門家の指摘をもとに厚労省がはじき出した被害想定では、死亡者数を「17万~64万人」と推計した。

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