そこで再びT-705に注目が集まる。タミフルとは作用機序が異なるため、パンデミック(世界的大流行)時に、タミフルでは効かない患者に投与する薬剤としての価値が見いだされたようだ。2004年にアメリカの国立アレルギー感染症研究所は、富山化学から提供されたT-705が高病原性の鳥インフルエンザに効果があることを突き止めた。これが契機となって、催奇形性の副作用はあるものの、富山化学は「経営上の判断」(富山化学関係者)によって、2007年にヒトを対象とした臨床試験を開始し、2011年には国に薬剤としての認可を求める申請にまで漕ぎつけた。
しかし、やはりここで壁にぶち当たった。薬剤の有効性や安全性について審査する日本の医薬品医療機器総合機構(PMDA)が、T-705の催奇形性の副作用リスクを問題視したのだ。動物実験で胎児の催奇形性が認められたことから、ヒトへの影響が強く懸念されるため、慎重に審査されることになった。
審査に3年を要しても承認に突き進んだ
当時の富山化学が催奇形性のリスクがわかっていながら承認申請に突き進んだ理由は謎だが、結局、アビガンが承認されたのは2014年だった。通常だと1年程度で済む審査期間が3年もかかっている。さらに、当初は通常の季節性インフルエンザに使用できる薬剤をめざしていたが、結局は新型インフルエンザにのみ使用が認められた。通常のインフルエンザに使われないよう徹底した管理を求められ、その後、パンデミックに備えて、200万人を目標に備蓄されることになった。
資金難や催奇形性の紆余曲折を経て、いわば「首の皮一枚」でつながったアビガンが、今、新型コロナの「切り札」として注目を集めている。なぜ抗インフルエンザウイルス薬が新型コロナウイルスに効果をもたらす可能性があるのかは未解明だが、共通点はインフルエンザも新型コロナも同じ「RNAウイルス」であることだ。2013年末に西アフリカで起きた「エボラ出血熱」のアウトブレイク(突発的発生)でも、アビガンが使われ、死亡率を「3分の2」に引き下げる効果があったとされている。このエボラウイルスも同じRNAウイルスだ。
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