中国オンラインショッピング、熱狂の真実 「たった1日で売り上げ5800億円」のナゾに迫る

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ユーザーを引き付けるのはブランドの「信頼感」と「ビジョン」

ビットコインのような新しい仕組みに大切な財産を託す人々の危機管理意識は、いったいどうなっているのか、他人事ながらとても気になります。オンライン決済も同じことで、人を簡単に信用しない中国人が、平気でネット上の仮想店舗でモノを買ったり、支払用の現金を預けたりするのは不思議な感じがします。しかし、中国人とアリババ、テンセントの間にはそうした懸念を乗り越える絶対的な信頼関係が存在するのです。

アリババは1999年創立以来、一貫してeコマースサービスを提供してきました。C2Cショップの「陶宝」とB2Cサイトの「天猫」を絶え間なく改善しながら、ユーザーに快適で安全なショッピング経験を提供してきた同社に、中国人は信頼を寄せています。アリババが出してくる新サービスなら、安心して試すことができるのです。

一方、テンセントは1998年の創立で、PCベースのインスタントメッセンジャーサービス「QQ」で大成功しました。QQのユーザーは8億人、つまり中国のインターネットユーザーほぼすべてが使っているというお化けアプリとなっています。ですから、ペンギンのキャラクターで親しまれる同社が2011年にソーシャルアプリ「微信」をローンチしたとき、ネットユーザーはためらうことなくダウンロードしたのです。

オンラインショッピングのアリババに対してソーシャルメディアのテンセントと、それぞれ出自は異なりますが、両社とも世界トップクラスの事業規模とともに、強力なブランドイメージを培ってきました。ブランドにとって重要なのは、過去の実績への定評や信頼感だけではありません。人々に対して、これからもっと成長するだろうから、今から乗っておいたほうが得だと思わせるようなビジョンを提案することが、ブランドのパワーとなるのです。

中国IT業界のカリスマであるアリババの馬雲(ジャック・マー)や百度の李彦宏(ロビン・リー)は、頻繁にメディアに登場して、ブランドのビジョンや事業のイノベーションアイディアを披露しています。その姿や発言こそが、未来へ向けたブランドの推進力となるのです。

最後の勝負はデリバリー

オンラインショッピングにとって決済システムと共に重要なのが商品の配送です。昨年12月、Amazonのジェフ・ベゾスが、無人飛行機で商品を玄関先まで配達するという構想を披露して世界をアッと言わせましたが、商品ラインアップや決済方法がどんなに充実しても、買ったモノが早く確実に手元に届かなければ、ユーザーは満足しません。ネット通販の勝負を決めるのは、最後は物流のクオリティなのです。

中国ではもともと「外売(ワイマイ)」と呼ばれる食べ物の出前が盛んでした。今も、街中はミネラルウォーターやファストフードを配達する足こぎ3輪リヤカーやバイクであふれています。ネット通販やビジネス文書のデリバリー需要が増えてくると、「快递(クアイディー)」と呼ばれる宅配業が、安い労働力頼みの人海戦術で対応するようになりました。以前はどこの会社でも、勤務時間中にPCから洋服や靴を発注する社員がいて、オフィスの入り口付近でデリバリーのお兄さんから商品を受け取る姿がよく見られました。

そんな旧式のデリバリー体制を刷新すべく、昨年12月、アリババがハイアールの物流子会社に3億6400万米ドルを出資してロジスティクスの強化に乗り出しました。物流拠点とネットワークを確保するとともに、今後は物流情報のインフラも整備すると思われます。そのうち、日本のようなクール便や時間指定便も出現するかもしれません。

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