コロナ危機、日米欧「総動員」の政策で防げるか 元日銀審議委員の白井さゆり慶大教授に聞く

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だが今回の危機は、突然に起きた。対岸の火事と思っていた感染拡大が2月末ごろからイタリアを皮切りに欧米へ広がり、その速さはすさまじかった。金融危機とは違い、一気に需要が消滅した。

白井 さゆり(しらい さゆり)/1963年生まれ。1989年慶應義塾大学大学院修了。1993年コロンビア大学経済学部博士課程修了(経済学博士)。国際通貨基金エコノミストなどを経て、2006年から慶応義塾大教授。2011年4月~2016年3月に日本銀行政策委員会審議委員を務める。2016年9月から現職(撮影:梅谷秀司)

入国制限や外出自粛などの感染封じ込め策によって世界的に航空、観光、小売り、外食産業などの需要が壊滅的となり、雇用が失われた。さらにサプライチェーン(供給網)が寸断され、生産不能に陥った。つまり需要と供給のショックが同時に起きる前例のないショックとなった。

このまま感染拡大が長引けば、いくら政府が債務保証をしたり、金利の返済猶予や減免を行ったりしても、顧客がいなければ企業は採算がとれず、倒産が増えるのは避けられない。それが金融危機につながるリスクがある。政府と中央銀行はできるだけ倒産や失業者を出さないように企業の資金繰りを支援しているが、消滅した需要を増やすことはできず、問題解決までは時間がかかるだろう。

――今回の2兆ドル対策でどれくらい時間稼ぎができるでしょうか。

2兆ドル規模の対策は、4~6月期の需要の落ち込み分にほぼ匹敵するといわれる。数字だけ見るとある程度相殺することになるが、4~6月期だけであり、必要なところへどこまでお金が届くかという問題もある。

4~6月期にすべてが届くわけでもない。貯金に回るケースもあるだろう。エアラインにしても、補助金をもらって乗客が増えるわけではなく、減便や解雇をやらざるをえない。2兆ドルがそのまま失われた需要を埋め合わせることにはならない。

そのため、感染収束が遅れれば、追加策が必要になるだろう。やりすぎという批判もあろうが、金融危機への連鎖が迫っているときには、やらなさすぎるよりは、やりすぎたほうがいい。それに今は中小・零細企業や一般庶民が大きな打撃を受けており、支援に対する国民の理解も得やすい。

社債購入にも乗り出したFRB

――企業支援では、FRBはコマーシャルペーパー(CP:企業が短期で資金調達するための無担保の約束手形)の買い入れ再開に加え、初めて社債の購入にも道を開きました。

社債購入で何がすごいかというと、市場から買うだけではなく、発行企業からも新発債を直接買うという大胆な方針を決めたことだ。

コロナショック前にアメリカでバブルの兆しがあると言われていたのは、ハイイールド債(投機的格付けの社債)やレバレッジドローン(投機的格付けの企業向け融資)、そしてそのローンを証券化したCLO(ローン担保証券)だった。

それらへ保険会社や年金基金、投資ファンド、銀行などが資金を投入し、リーマンショック前を上回る巨大な市場となっていた。CLOには日本の金融機関も大量に投資している。低金利下の運用難の中でハイリスク・ハイリターンの商品へ資金が向かった結果だ。

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