コロナ危機、日米欧「総動員」の政策で防げるか 元日銀審議委員の白井さゆり慶大教授に聞く

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そういう意味で日銀は今回、欧米の中銀に比べていちばん小出しだった。日銀はETF(上場投資信託)の買い入れを年間12兆円とした。日銀は倍増と言っているが、6兆円程度は維持しており、買い入れ上限の倍増なので必ずしも倍増とはならない。

これ以外はとくに政策変更もなく、余計に欧米の大胆さが際立った。日本にはアメリカのように大きな社債市場やCP市場もなく、2013年からやれるだけ緩和をしてきたので出尽くし感が強い。そうはいっても景気後退が厳しくなれば、いろいろ追加策を考えなければならないだろう。

――マイナス金利政策の深掘りの可能性は?

日銀は否定していない。円高がものすごく進めば、YCC(イールドカーブコントロール)で10年国債金利を下げながら、政策金利の深掘りもありうる。ただ、今は幸いにしてドル高なので行う必要がない。やれば銀行の収益に打撃となり、貸し出しを増やせと言っていることとも矛盾する。そのため、よっぽどのことがない限り、やらないと見る。

FRBのマイナス金利導入はありえない

――中央銀行が株式を買うことをどう考えますか。

世界の中央銀行で金融政策として株を買ったのは日銀だけだ。大昔はやったが、近代ではほかにない。株の買い入れを海外の中央銀行も検討したというのは聞いている。

今回に限らず、これまでいくつか内々に相談を受けたこともある。だが、株というのは満期償還のある債券とは違い、売却しない限り残るので、中央銀行として非常に慎重に考えるべきだ。日銀が将来、売却するのは非常に困難な作業となるだろう。

株式市場をゆがめることにもなる。日本ではもともと持ち合い株が多いのに、日銀やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も買っているため、流通株が非常に少なくなっている。それがもたらす流動性の問題に加え、安定株主ばかりが増えてコーポレート・ガバナンス(企業統治)上も問題がある。

――FRBが株を買う可能性はあるでしょうか。

連邦準備法では債券などを買えると明記しているので現段階では難しそうだ。改訂するにしても両院の承認が必要なのでハードルが高い。ただ将来、株価がさらに暴落して経済への影響が大変なことになったら、トランプ氏が買えと言うかもしれない。仮に買うことになったとしてもアメリカは株式市場が巨大で投資家も多いので、FRBが短期的に多少買う程度ならば売却は比較的容易だろう。

いろいろな非伝統的な金融政策がある中で、効果があると中央銀行の間でコンセンサスができているのは、第1にフォワードガイダンス(将来の政策方針の表明)。これは表現だけの話だが、金融緩和をいつまでやるかといったことを示すことだ。第2に資産買い入れ(量的緩和=QE)。ある程度効果があるということで合意している。金融市場に緊張があるときにはとくに効果があるが、ずっと効果が続くというわけではない。

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YCCについては、日本では需要やインフレ面でとくに効果があったわけではないが、海外、なかでもアメリカは評価している。資産の買い入れを減らしながら金利を低く維持できているためだ。FRBはかなり真剣に検討しており、年内にも導入する可能性がある。

ただ、日本で10年債金利をゼロにコントロールできているのは、日銀が国債の45%も保有しているからであって、巨大な国債市場を持つアメリカでは簡単ではない。やるとすれば5年物以下の短期の国債におけるYCCではないか。国債需給の変化などから昨秋に短期のレポ金利が跳ね上がって以来、市場もFRBも非常に過敏になっており、そのこととも関係がある。ただ、YCCには市場の流動性減少など副作用があることも留意すべきだ。

――アメリカがマイナス金利政策を導入する可能性は?

しないだろう。パウエルFRB議長も否定している。アメリカには巨大なMMF(マネー・マーケット・ファンド)市場があるためだ。マイナス金利政策を導入すれば、短期国債やCPなど短期金融市場に資金を供給しているMMFの運用が困難になる。日本を見ればわかるように、金融機関に与える打撃も大きい。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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