つらかったのはそこからです。依頼した探偵事務所は録音データを受け取らない方針で、依頼者に書き起こしを求めていました。ところが、録音を望んだ当の母親は「メンタルがやられるから」と拒絶。そのため、ゆきさんが書き起こすことになってしまったのです。
祈るような気持ちで「録音されていたのは、お父さんと浮気相手の会話?」と筆者が尋ねると、「会話というか、車でもう、事がなされていたので」といいます。誰がどう考えても、中学2年生がする仕事ではありません。
書き起こしをしながら、父親が「母や私よりも、女を取る」という事実に、ゆきさんは絶望していたといいます。
高校に入り死に物狂いで勉強とバイトを頑張った理由
両親の離婚は、中3の頃でした。ずっと「母の慰め役」だったゆきさんは母に付いて行くつもりでしたが、母は急に「私のほうに来ても、学費も出してあげられへんし、あんたにとって幸せな人生は送られへん」と言い出します。「皮肉ったらしく言われた」ため、拒絶されたようで傷つきましたが、進学のことを考えればそのほうがいいことは確かです。結局、父親のほうへ付いて行くことに。
しかし、ゆきさんが高校に入るとき、父親は再婚します。事前に何の相談もなく、突然事後報告されたことに、ゆきさんは「軽く思われている」と感じて傷つきました。
再婚相手は、ゆきさんが浮気の証拠を押さえた、あの女性でした。相手の子どもたちを含め、家族の人数は一気に倍増。新しい家族のために家を建て直し、離婚した母には慰謝料を払い、父親にも金銭的な余裕はなくなっていきます。
子連れ再婚家庭では「異なる家族の文化」が衝突して、双方に大きなストレスを生むのが定番です。それでも中学のときに寮暮らしを経験したゆきさんは、継母一家との共同生活を比較的、柔軟に受け入れたようです。ただし、年が近い義理の姉だけはどうにも感じが悪く、いまも「どうしても受け入れがたい」といいます。
この頃、ゆきさんはある夢をもっていました。将来、自分の大切な人々――姉や、祖母の家にいるいとこ(母親を亡くしている)を自分が養って暮らしたい。そのためには、しっかり稼げるよう薬学部に進んで、薬剤師になりたい。
しかし父親に話すと、大学は「国公立しかダメ」と言われます。さらに奨学金を借りることも不可。父親自身が奨学金の返済に苦労したためです。父親は年収が高いため、給付型の奨学金を受けることもできません。ゆきさんは、納得できませんでした。
「父は『厳しさは愛情』だと言う。だったら、私立にも行けるお金を用意したうえで、『まず国公立を第一に目指しなさい』というならわかるんですけど、『国公立しか許さない、私立のお金も出さない』って。それは違くない?と思って。
父が再婚するときは、私もまだ信頼してたんです。再婚せんかったら得られたはずの子どもの利益を奪うようなことは、しないやろうと。再婚なんて、まあ親の自己満じゃないですか。あと数年待てば子どもたちは自立するところ、それを待たずに自分たちがすぐくっつきたいっていうのに、子どもの未来の選択肢を奪うようなことはしないやろうと思っていたんですけど」
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