「自分本位な人」が結局大きな幸せをつかむ必然 「利他」「協調」の対極にあるわけではない
楠木:「自分本位」と「自己中心」の違いは、なかなかイメージできないと思うんです。この2つは混同されがちで、「自分本位」というと悪いことのように思える。すると、もう少し自分を抑制してまわりの期待にあわせなくちゃいけない、などと思うわけです。しかし、この本では「自分本位」と「自己中心」を分けてくれる。
実際のところ、価値あるコンセプトというのは、「これまで同じものだと考えられていたことが実は違う」ということを教えてくれるものです。
1950年代に、二要因理論というのが提唱されました。アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグのこの理論は、簡単に言うと、人間のモチベーションはどこから生まれるのか、という普遍的な問題を扱った話です。
この理論が行き着いたところは、「不満」と「不満足」は別の次元であるということ。それまでは「不満」と「不満足」は同じ次元にあると思われていた。つまり「不満足」をなくしていけば、その先に「満足」があるかと思っていたが、そうではなかった。
秦:不満足の解消の先に満足はない。例えば、どんな例がありますか?
楠木:従業員の不満足をヒアリングしたところ、「給料が安い」という回答が手に入ったとします。では、給料を高くすれば「満足」してモチベーションが上がるのかと思いきや、そうならない。不満足を解消し続けていった先にあるのは、不満足がなくなった状態、つまり「没不満足」でしかない。
「自己本位」を突き詰めると利他になる
秦:なるほど! 確かに、「没不満足」状態は、本質的なモチベーションが湧いている状態とは言えませんね。
楠木:はい。不満足を減らすもののことを「衛生要因」と呼び、本当に人間の満足を満たすものを「動機付け要因」と呼びました。この2つの要因は同じ次元になく、それぞれをそれぞれの概念から切り離してみることで、本質が見えてくるのです。
何が言いたいのかというと、セルフィッシュという概念にも同じことが言えるということです。
秦:セルフィッシュの対極にあると思われているものは、実はそうではないと。