「自分本位な人」が結局大きな幸せをつかむ必然 「利他」「協調」の対極にあるわけではない

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楠木:例えば、 セルフィッシュを「自己中心」と捉えると、その対極に来そうなのは、「利他」「協調」のような概念でしょうか。自己中心になりすぎると利他性を失い、利他が強すぎると自分を失う。そうではなくて、セルフィッシュというのは、この次元とはまったく別なんです。

:セルフィッシュ=自分本位な生き方は、結果として利他にもつながることが多いですからね。

楠木:まったくそのとおりだと思います。

なぜ方言を使わなかったのか、高倉健のセルフィッシュ

楠木:この本の言っているセルフィッシュをイメージすると、高倉健さんを連想します。自分の中で「カッ」とくる映画以外には出演しないという信念からして、ものすごくセルフィッシュ。あとは、映画を制作するスタッフとの信頼関係を築いていくのに、ものすごくエネルギーを使うそうです。これは、スタッフとの信頼関係がそのまま画面に出て、それはお客さんにすぐに見破られてしまうという理由からです。

秦卓民(はた たくみ)/1979年生まれ。2009年、総合コンサルティング会社、(株)ENERGIZEを共同設立。スポーツ選手、企業経営者などを中心にビジネスのパフォーマンスが上がるエグゼクティブコーチングを行っている。顧客にリンクアンドモチベーション、Plan・Do・See、サッカー日本代表選手など多数(撮影:尾形文繁)

だから、自分のやり方を貫くっていうのはある意味でお客さん本意になっていますよね。これも、お客さん本意と自分本位は実は対極になく、突き詰めていくと同じになっているということです。

:確かに、対極にあると思っているものが実はそうじゃないことって、ほかにもありそうですね。

楠木:あともう1つ高倉健さんのエピソードで好きな話があります。

健さんは、劇中で方言で話すことを嫌うんですよね。それは、自分の言葉ではないからです。設定に忠実になるために方言をマスターするという考え方もありますが、やはり自分の言葉でないことは伝わらない。それは、結果としてお客さんを喜ばせられない。

同じ意味で、「役になりきる」ということにも異論を唱えています。例えば、ヤクザ映画に出演するときに、ヤクザになりきるために役を研究し、果てはヤクザと寝食を共にするまでやる人もいる。しかし、お客さんが求めているのは、「映画の中に出てくるヤクザっぽい人」なんです。

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