調理をしながらきちんと自分の目で見られるのは8人が限界だという。
テーブル席を入れたら、目も届かなくなるし、スープも足りなくなる。商売人だったら、例えばスープを薄くするなどして、量を増やしたりするかもしれない。
だが、丈六さんはそれをしたくない。
待合室を作ったおかげで、行列に並ぶお客さんはずいぶん楽になった。夏は暑く、冬は寒い中、数十分並ぶのは大変だ。
「僕らが何を目指さないといけないか? もちろん福沢諭吉も目指さないといけないけど、やっぱおいしいラーメンを作らないかんのです。
お客さんの笑顔を追いかけないといかんのですよ」
と、語った。
食材は「こだわりがないのが、こだわり」
ただ丈六さんは、一聞すると真逆に聞こえるこだわりを持っている。それは、使用する食材に関してだ。
「こだわりがないのが、こだわりですね」と丈六さんは笑顔で言う。
水は大阪市の水道水そのまんま。しょうゆは業務用スーパーに並んでいる商品。鶏ガラも名古屋コーチンや比内地鶏などの凝った食材ではなく、タマゴを産まなくなったブロイラー。チャーシューの豚肉も、業者さんが安く落としてきた肉。ネギだけは京都九条ネギを使っているが、これは農家さんと契約していることで安く手に入るからだ。麺の小麦粉も、北海道産など香りがいいと言われているものではなく、オーストラリア産の粉を使用している。
「すごい食材を使ったらすごいものができるかもしれないけど、でもまあいいわって思ってます。その代わりというわけではないですが、値段は750円におさえています。麺とスープの量も多いと思います。たぶんお客さんは800円でも同じくらい来てくれると思うんですが、でもやっぱりラーメンは庶民の食べ物だから750円が限度かな、と考えています」
ラーメン屋さんの1日は忙しい。スタッフの方は9時頃にお店に入り、スープの仕込みをする。丈六さんは10時くらいに入り、翌日分の製麺をする(1日寝かせる)。そしてその日使う麺を切り出す。
オープン前にお客さんは並び、じっと自分の番が回ってくるのを待っている。
営業時間である、11時30分から15時まで、18時から21時までは、目まぐるしくラーメンを作り提供し続ける。
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