ウイルスを広めた人を探す、自分勝手の行動に走って食料を買いだめする、情報を確かめずに危険だと思われる場所からただただ逃げる……中世を生きたイタリア人と、いろいろな国籍の現代人はやはり同じような行動をする。
いかなる場合でも愛を諦めない
ところで、このような気の滅入る描写は、1日目の前書きにだけ集中しており、その後に展開されている数々の小話はその陰惨な雰囲気を一蹴。そこにはイケメン海賊と恋に落ちる女や、尼さんたちが競い合って寝たがる庭師など、笑いが止まらない話が次々と出てくるので、100話なんてあっという間に終わる。
高尚なところが何ひとつなく、すべての話が当時の日常に根を下ろしている。世俗に生きている人々が非常にリアルに描かれ、ルネサンスの理念である「人間中心の精神」が文学を通して見事に実現されている。
この作品を通じて、ボッカチオが最も伝えたかった2つのテーマを改めて紹介しよう。1つは、どんなに苦しくても、どんなに不安でも、どんなに窮地に陥っても、それはいずれ終わる、ということ。もう1つは、この作品の読者として想定されている淑女の皆様に向けたもので、いかなる場合でも愛を諦めない、ということだ。
「この人生には、無数の教訓が散りばめられている。しかし、どれ一つとってみても、万人にあてはまるものはない。それを教訓にするかどうかが、君自身の選択にかかっている」と山本周五郎は書き残している。今私たちが直面している状況も、これをどう解釈して、どう対処するか、または何を信じて行動するかはそれぞれ違う。
しかし、他人に対する思いやりを忘れないことと愛すること、平常心を保つことと希望を持つこと、ボッカチオがつづったその教訓がなるべく多くの人々に届いてほしい。
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