ボッカチオの作品の中で、いちばん有名なのは『デカメロン(10日物語)』だ。これは、女性7人と男性3人の若者が、ペストが蔓延する都市から離れて郊外にある別荘に籠り、1日に1人ずつ10の物語を話して10日間語り合うというリレー小説である。
全部で100話ということになるが、それぞれのストーリーがユニークな世界観を持ち、登場する人物たちは、庶民から貴族、奔放な生活を楽しんでいる人から聖職者など、バラエティーに富んでいる。話し手はみんな品のある紳士や貴婦人という設定になっているものの、それぞれの物語には性、愛、富、嫉妬、復讐をめぐる過激な内容も含まれており、そのどれもが活気にあふれている。
しかし、都会から離れて暮らす10人の若者たちは、現実逃避に走っただけではない。「Umana cosa è avere compassione degli afflitti (苦しむ人を思いやることをできるのは、人間だけだ)」という言葉で始まる『デカメロン』は、単に娯楽のために書かれた作品にとどまらず、恐怖や偏見に満ちた陰気な空気への反動であり、生命力にあふれる社会を再構築するために織りなされている物語として成り立っている。
1日目のプロローグには、1348年のフィレンツェの様子が詳細に述べられている。それは地獄絵図そのものだ。
Alcuni erano di più crudel sentimento, come che per avventura più fosse sicuro, dicendo niuna altra medicina essere contro alle pestilenze migliore né così buona come il fuggir loro davanti; e da questo argomento mossi, non curando d'alcuna cosa se non di sé, assai e uomini e donne abbandonarono la propia città, le propie case, i lor luoghi e i lor parenti e le lor cose, e cercarono l'altrui o almeno il lor contado, quasi l'ira di Dio a punire le iniquità degli uomini con quella pestilenza non dove fossero procedesse, ma solamente a coloro opprimere li quali dentro alle mura della lor città si trovassero, commossa intendesse; o quasi avvisando niuna persona in quella dover rimanere e la sua ultima ora esser venuta.
【イザ流圧倒的意訳】
一部の人たちはもっと残酷な意見を持っていたが、偶然にもその考え方は幾分懸命だった。それはつまり疫病に対する最も効果的な薬は逃げること、ただそれだけに尽きるというのだ。
そう思った人々は傍若無人に振舞い、育った街や家も、見慣れた場所も後にして、親族や所有物もみんな捨てて、ほかの街の田舎、少なくともフィレンツェの中心から離れた場所を必死に求めた。
まるで疫病がフィレンツェの城壁の中にしか存在しないかのように、あいつらは神様の怒りから逃げられるとでも思っていた。逆に、都会に残された人たちをみんな見殺しにしても仕方ないとも思っていたかのようだった。
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