使いやすいデザインとなぜか戸惑うモノの差 「バグトリデザイン」とは何か知っていますか
タクシーの後部座席に3人で乗り込み真ん中に座ると、シートベルトの差込口がわからなくて戸惑ってしまう。混雑した駅のホームで出口へのサインを探して、足を止めてキョロキョロしてしまう。店のカウンターで受け取ったテイクアウト用のコーヒーが熱くて、思わずこぼしてしまう。このような体験をしたことはありませんか。
人の行為は必ずしも一定のリズムや流れで行われるとは限りません。何らかの事象に直面すると、それに応じたさまざまな反応があり、行為が阻まれてしまいます。
人の行為には、必ず「バグ」がある
私は、この「行為が阻まれる事象」を「バグ」と捉えています。「バグトリデザイン」とは、人の行為を観察したり想像体験したりして、このバグを見つけ出し、解消するようにモノやサービスをデザインすることです。
昨今では、多くの企業がイノベーションのために過去のヒット商品や市場を研究していますが、研究所の中やデータベースに答えはありません。目の前の行為が阻まれるバグの原因を究明することこそ、モノやサービスの問題点を明らかにし、ユーザーの行為に配慮したデザインを生み出すことができるのです。
バグには大きく分類すると6つの種類がありますが、今回は『バグトリデザイン 事例で学ぶ「行為のデザイン」思考』で紹介したうち、2つのバグをご紹介しましょう。
さきほど例に挙げた、3人乗りの後部座席。真ん中に座って、シートベルトをすぐに差せる人はいるでしょうか。1回では差せずに何度も差そうとして、左右の人にひじや手持ちのカバンをぶつけたりして「すみません、すみません」とまごまごしてしまうこともあるのではないでしょうか。
このシートベルトには、行為を阻む原因がいくつもあります。まず、差し込み金具の裏表がわかりづらく、どの方向に差せばいいのかすぐにはわかりません。
次に、真ん中に座る人にとっては、隣に座る人のシートベルトの受け具も接しているため、左右どちらの受け具に差し込めばいいのかわかりません。さらに、受け具が目立たないようにシートに埋もれたオシャレなデザインだと、昼間でも見つけることすら困難です。
3人乗り後部座席のシートベルトは、かくもユーザーを迷わせてしまう構造となっているのです。ユーザーに迷いが生じて適切な判断・選択ができなくなるこのようなバグは、「迷いのバグ」といいます。
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