夫への「愛憎」を書き続けた女子の凄まじい人生 「蜻蛉日記」のみっちゃんが今年もやってきた

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記念すべき最初の浮気がバレて、2人の関係がギクシャクし始めるときも、「露」が再び登場……。

兼家:百草に乱れて見ゆる花の色はただ白露のおくにやあるらむ
とうち言ひたれば、かく言ふ。
道綱母:身のあきを思ひ乱るる花の上の露の心は言へばさらなり
【イザ流圧倒的意訳】
兼家:いろいろと乱れて見える花の色は白露が置いてあるからだろう。あなたが打ち明けてくれない悩みのように、みんな気のせいだよ。
とふとつぶやいたので、わたしがこう言いました。
道綱母:あなたに飽きられているこのわたし。花の上の露と同じように、不安定で苦しい心を今さら打ち明けてもどうしてくれるのよ。

ふう……消え入りそうな感じがまったくない。言葉が1つひとつズシンとくる。ほかの「露」の歌も、同じような調子だが、それらの句はすべて最初の「そらだのめするわれは何なり」に呼応している。兼家との不幸な人生が予見されているその言葉がほかの歌につながり、ますます現実味を帯びてくる。

度重なる浮気、待ちわびて一睡もできないつらい夜、屋敷の前を素通りされてしまう悔しさ……。展開を知ってから『蜻蛉日記』を読み返すと、負の予感がいろいろなところに点在しているところにハッと気づく。だから、1回だけでは足りない。みっちゃんの執念深さをしっかりと味わうには毎年1回は読むのがお勧めだ。

同じ待遇にあった、ほかのレディーの反応は…

とはいえ、作家としての緻密さに感動をしつつも、結婚初日くらいは、相手を少し信じてあげてもいいじゃないか、と思わず兼家の肩を持ちたくなる。本来、後朝のやりとりは情熱や希望にあふれているはずだが、現実主義のみっちゃんはその時点でもすでに不安。同じ待遇にあったほかのレディーの反応と比較してみると、彼女の独特の不信感はなおさら明らかだ。

次の引用文は敦道親王が、亡き同母兄・為尊親王の恋人だった和泉式部にお見舞いをしたことから発展した恋の始まりの場面だ。『和泉式部日記』よりの抜粋。

:恋と言へば世のつねのとや思ふらん今朝の心たぐひだになし
御返り、
:世のつねのこととも更に思ほえずはじめてものを思ふ朝は
【イザ流圧倒的意訳】
:恋していると言ったら、ありふれたことだと思うでしょうか。でも今朝あなたを思う俺の気持ちはほかにないほどです
それに対して、
:ありふれたことだなんてちっとも思いません、これほどはじめて恋する朝だもの

そのあとすぐに「思ひ乱るる」和泉ちゃんだが、それでもみっちゃんが醸し出す重い空気とはまるっきり違う雰囲気になっている。

注釈による、「たぐひだになし」を5句に置くというのは、平安和歌においてこの歌が唯一の例のようで、気持ちの昂ぶりがそっくりそのまま異例な構造に現れているわけである。彼の「今朝」に対して、和泉ちゃんは「朝」を返し、生まれたての恋が未来へと続いていく期待が強調されている。

次ページみっちゃんの負の予感はずっと続く
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