ノルマに苦しむ営業マンたちの新たなる"憂鬱" 不祥事が起こる背景には構造の変化がある

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大企業の中でも、とくに営業マンを多く抱える企業において、なぜ「ノルマ」と「不祥事」の問題が併存してしまうのか。考えられる要因としては、これら企業のビジネスモデルが時代に追いつかず、多くの営業マンを余剰に抱えた結果のトラブルであることがうかがえる。

2019年4月、コンサルティング会社であるアタックス・セールス・アソシエイツが発表した「日本の営業実態調査2019」によると、ノルマを達成できなかった理由についての回答の第1位は「営業戦略が悪かった」であった。

数字が上がらないのを自身の結果としてではなく、組織の営業戦略のせいにしているさまを見ると、「そもそも他人のせいにするような人間のパフォーマンスが悪いのは当たり前だ」という思いが頭をよぎる。

しかしベンチャーキャピタリストとして日本やシンガポール、インドのファンドを担当し、ベンチャー投資や投資先にてM&A、株式上場支援などを行い、多くの企業を見てきた私からすると、営業の成果が上がらない根本的な原因は、個々の資質云々の前に「経営戦略」の誤りにあると考えている。

実際、ノルマを課しているのに営業成績が上がっていない企業の多くが、古いビジネスモデルのままであるか、無理のあるビジネスモデルを採用している。

例えば最先端のビジネスモデルを駆使するインターネット証券は、そのシェアを一気に拡大していった。1999年10月から2000年3月の期間において、インターネット証券の売買代金は全証券取引のわずか1.8%にすぎなかった。それが、2018年10月から2019年3月の期間には、証券取引全体の23.6%を占めるほどまでに成長し、実に19倍もの伸びを見せている。

一方、こうしたビジネスモデルの変化に対応できず、多くの営業マンを抱えたままになっている野村證券といえば前述のとおりで、支店の廃止、統合を余儀なくされた結果、赤字となった。野村證券が赤字になるのはリーマンショック以来、実に10年ぶりのことである。

「営業マン不要時代」の憂鬱

ただ、そんな旧来型の営業マンを苦しめているのは、無理なノルマや彼らの所属する会社が採用している古いビジネスモデルの問題だけにとどまらない。これから彼らを苦しめるのは「営業マン不要の時代」がやってくるということだ。

現場で営業に立っている人たちは、現在、「ルート営業」のように比較的単純な御用聞き的業務を担う営業マンの仕事が、数クリックで商品を購入できるさまざまなサイトやサービスの台頭によって、その地位を脅かされ始めていることを、如実に実感しているだろうと思う。

しかしこの流れは、御用聞き的営業やルートセールスの分野にとどまらない。すでに最先端の営業の現場では、新規獲得営業の分野においても、営業事務はもちろん、新規のアポ取りやその後のクロージング作業といった複雑な仕事までをもテクノロジーが代替し、あらゆる営業マンを締め出しつつある。

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