訪日観光目標を「量」から「質」へ転換しようという動きも今回、水を差された格好だ。政府は2020年の目標として、訪日観光客数4000万人と同時に、観光消費額8兆円という目標も掲げている。
2019年時点の進ちょく率は、観光客数が3188万人、約80%なのに対し、観光消費額は4.8兆円、同60%と低い。その原因の1つは、滞在日数が短く、物品購入額が小さい韓国人観光客の比率が大きいことにある。韓国人観光客の1人あたり旅行支出(一般)は2019年で約7万5000円と、全体平均の約15万8000円を大きく下回っている。
「日本のインバウンド戦略が、人数ではなく消費額という『質』の重要性を再認識し、正しい方向に向かう転機になるのでは」(観光産業の研究家)という声もあがっていたが、中国人観光客の減少となると話は変わってくる。
一時期「爆買い」という言葉が流行ったように、中国人観光客の消費意欲は強く、1人あたりの旅行支出は約21万3000円(2019年)。まさにインバウンド戦略における「上客」だったため、新型コロナウイルスによるダメージは大きくなりそうだ。
地方の高級ホテル50カ所構想へ疑問の声
インバウンド戦略の数値目標を客数から消費額へシフトする象徴といえるのが、菅官房長官が2019年12月に示した、地方で高級ホテルを50カ所整備する方針だ。5つ星レベルのホテルを求める層の誘客や、より多くの支出を促す狙いがある。
しかし、この政策には観光業界から冷ややかな視線が送られている。あるラグジュアリーホテルの幹部は「平均客室単価が4万円を超えるようなラグジュアリーホテルを地方で実現するためには、地域の綿密な観光マーケティングに基づいたコンセプトと、その価値観を体現するためのオペレーションができる人材が欠かせない。観光マーケティングが洗練された地域は一握りであり、そのような人材も足りない」と切り捨てる。
別の業界首脳も「方向性は間違いではないが、ラグジュアリーを実現できる場所は世界でも限られる。どこまで政府が支援できるのか」と懐疑的だ。
東京オリンピックで日本を世界にアピールし、2030年に訪日観光客6000万人、観光消費額で15兆円を目指すとしてきた日本のインバウンド政策。これまで右肩上がりだった時代が一変し、コロナウイルスという逆風が吹き始めた観光業界の課題は、欧米や成長著しい東南アジアなど、次なる顧客の開拓となりそうだ。
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