副作用/有害事象は「殺人」
ちょうど5年前の2015年1月13日付の神戸新聞に、こんな記事が掲載された。社会面の中ほどに載った、見落としてしまいそうなベタ記事の扱いだ。
「夫に殴られ 73歳妻死亡」
兵庫県姫路市内に住む76歳の無職の男性が自宅で妻(73歳)を殴って死なせてしまったという事件だ。記事によると男性は「妻がぶつぶつ言っていたので腹が立って素手で1発殴った」と認めているという。罪名は傷害から傷害致死に切り替えられている。
一見、単なる夫婦喧嘩の延長にも見えるこの事件だが、そんな単純なものではないことが、後にわかる。
厚生労働省所管の独立行政法人である医薬品医療機器総合機構(PMDA)には、全国の医師や製薬会社などから報告のあった医薬品の副作用事例を「症例一覧」として公開している。この症例をたどっていくと、同じ日付の報告事例がある。「副作用/有害事象」の欄に「殺人」とある。「発現日」は、事件のあったのと同じ「2015年1月12日」で、「70歳代」「男性」も一致する。もちろん個人名や地域名も書かれていないので、確実というわけではないが、姫路の事件のことを指していると思われる。
症例報告によると、この男性はアルツハイマー型認知症の患者で、抗認知症薬、降圧剤、糖尿病薬、高尿酸血症治療薬など複数の薬剤を服用している。その中で、殺人という副作用を起こした被疑薬を「ガランタミン臭化水素酸塩/レミニール」に絞り込んでいる。
レミニールとは、日本で使われている4つの抗認知症薬の先発品の1つだ。その添付文書の副作用欄に「激越」「怒り」「攻撃性」などの精神障害が記されている。この男性が妻を殴打したのは、副作用の疑いがあると報告されていた事例だったのだ。