殺人の原因にもなりうる抗認知症薬の大リスク 厚労省や医師の問題認識はこのままでいいのか

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
副作用で最悪の事態を招いた実例がある(写真:Graphs/PIXTA)
医師から処方される薬剤が原因で、生気がなくなったり、落ち着きを失ったり、認知機能が低下したりする高齢者が数十万人に及ぶかもしれないとしたら信じられるだろうか。
これを「薬剤起因性老年症候群」と呼ぶが、高齢者にとって人生総決算の大切な時期に普段の自分を見失うことは、いわば尊厳を奪われるに等しい。注意を要する薬剤を適正に使っていない点では、まさに「薬害・廃人症候群」と呼ぶべきだろう。計3回の短期集中連載の最終回をお届けする。
第1回「認知症の数十万人『原因は処方薬』という驚愕」(2020年1月22日配信)
第2回「『睡眠薬で高齢者『寝かせきり』病院・施設の闇(2020年1月23日配信)

副作用/有害事象は「殺人」

ちょうど5年前の2015年1月13日付の神戸新聞に、こんな記事が掲載された。社会面の中ほどに載った、見落としてしまいそうなベタ記事の扱いだ。

「夫に殴られ 73歳妻死亡」

兵庫県姫路市内に住む76歳の無職の男性が自宅で妻(73歳)を殴って死なせてしまったという事件だ。記事によると男性は「妻がぶつぶつ言っていたので腹が立って素手で1発殴った」と認めているという。罪名は傷害から傷害致死に切り替えられている。

この連載一覧はこちら

一見、単なる夫婦喧嘩の延長にも見えるこの事件だが、そんな単純なものではないことが、後にわかる。

厚生労働省所管の独立行政法人である医薬品医療機器総合機構(PMDA)には、全国の医師や製薬会社などから報告のあった医薬品の副作用事例を「症例一覧」として公開している。この症例をたどっていくと、同じ日付の報告事例がある。「副作用/有害事象」の欄に「殺人」とある。「発現日」は、事件のあったのと同じ「2015年1月12日」で、「70歳代」「男性」も一致する。もちろん個人名や地域名も書かれていないので、確実というわけではないが、姫路の事件のことを指していると思われる。

症例報告によると、この男性はアルツハイマー型認知症の患者で、抗認知症薬、降圧剤、糖尿病薬、高尿酸血症治療薬など複数の薬剤を服用している。その中で、殺人という副作用を起こした被疑薬を「ガランタミン臭化水素酸塩/レミニール」に絞り込んでいる。

レミニールとは、日本で使われている4つの抗認知症薬の先発品の1つだ。その添付文書の副作用欄に「激越」「怒り」「攻撃性」などの精神障害が記されている。この男性が妻を殴打したのは、副作用の疑いがあると報告されていた事例だったのだ。

次ページさらに驚いたことに
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事