殺人の原因にもなりうる抗認知症薬の大リスク

厚労省や医師の問題認識はこのままでいいのか

認知症の中核症状は物忘れだ。暴言や暴力、徘徊、弄便(ろうべん。便を触ったりする行為)などは「行動・心理症状」(BPSD)と呼ばれ、認知症に付随して起きる症状だ。だが、家族にとって、これが疲弊する最大の要因となる。夜中に徘徊されては家族も眠れない。暴言、暴力も耐えられない。患者本人や家族にとっても、抗認知症薬は一縷(いちる)の望みなのだ。

だが、抗認知症薬の効き目は限定的だ。一方では、自分を見失ってしまうかもしれない重大な副作用が起きる可能性がある。医師は、そのメリットとデメリットを患者や家族にきちんと説明しているのだろうか。日本の場合、安全性情報は医療が握っていて患者にはあまり知らされない。

誰でも知っているガスターでも深刻な副作用

その安全性情報がきちんと患者に伝わっていないといえば、胃腸薬がある。

「日本で代表的な胃腸薬は」と尋ねられれば、おそらく多くの人は「ガスター」と答えるのではないだろうか。このガスターを高齢者に投与した場合、認知機能が低下し、「無気力感」や「せん妄」「錯乱」「意識障害」「うつ状態」を引き起こすおそれがあることを知っている人が、どれだけいるだろうか。

胃酸の分泌を止めるH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)の1つとして1983年に登場し、ピーク時には約900億円を売り上げた定番商品だ。今では市販薬としてドラッグストアでも販売している。

H2ブロッカーには「認知機能低下」の危険性があると日本老年医学会も指摘している(筆者撮影)

兵庫県立ひょうごこころの医療センターの小田医師は、ガスターによって認知機能低下を招いた患者を何人も経験している。

2018年4月、80歳代女性が家族に連れられて小田医師のもとを訪ねてきた。1年前から「物忘れ」が目立つようになり、MMSE検査をすると、認知症のボーダーラインの24点だった。だが、頭部の画像検査にも問題は見当たらない。

女性が服用している薬剤の履歴を見ると、「ファモチジン」(ガスターの後発品、以下ガスターで表記)を処方されていた。かかりつけ医に処方中止を進言すると、別の胃腸薬に変更してくれた。それから3カ月後、女性のMMSE検査は28点にまで回復した。物忘れの症状は認知症によるものではなく、ガスターの可能性が高いと小田医師は判断している。

それまで精神・神経症状には問題のなかった高齢者が急に認知機能の低下を招いてしまう。その原因が、一般的な胃腸薬だとは、誰が想像するだろう。

日本老年医学会の2015年のガイドラインでは、H2ブロッカーについて「認知機能低下」の危険性があるので、「可能な限り使用を控える」と注意喚起している。

ところが、ガスターの添付文書を見ると、高齢者への投与については「減量するか投与間隔を延長するなど慎重に投与」との記述にとどまっている。副作用欄には「可逆性の錯乱状態」「うつ状態」「意識障害」(ともに頻度不明)などと書かれているものの、学会が注意を促した認知機能低下についての記載は見当たらない。

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