殺人の原因にもなりうる抗認知症薬の大リスク 厚労省や医師の問題認識はこのままでいいのか

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本連載で私たちは、ベンゾジアゼピン系薬剤に抗認知症薬、それに胃腸薬のH2ブロッカーを取り上げてきた。高齢者が最も失いたくない認知機能や運動機能の低下、それに過鎮静など、それまでの生活を一変させてしまう副作用の危険性が起きうる薬剤だ。だが、危険な薬剤はこれだけではない。

2017年8月、日本神経学会は、認知症疾患診療ガイドラインを公表した。認知機能の低下を誘発しやすい薬剤を一覧表にまとめている。私たちが取り上げた薬剤以外にも抗精神病薬、抗うつ薬、抗がん剤、抗ウイルス薬、抗菌薬など薬効の下に300種類近い薬剤名が挙げられている。

鎮痛薬としては有名なリリカやインフルエンザに対する抗ウイルス剤であるタミフル、高脂血症薬としていま最も使われているクレストール、泌尿器科の薬剤として売り上げ上位のベシケア、ガスターの次の世代の胃腸薬であるタケプロンやパリエットの名前もある。これらは医療現場で広く使われている一般的な薬剤だ。

高齢者に対する意識の希薄さが根底に

もちろん、これらの薬剤を必要とする患者もいるし、有用性を否定するつもりはない。だが、その前提となるのは、医師の危険性認識だ。いろいろな学会が警告を発しているにもかかわらず、知らない医師が多すぎるというのが、減薬に取り組んでいる専門医らの共通した見解だ。医師が知らなければ、副作用を起こしていることさえ見過ごし、高齢者は不本意な末路をたどって命を落としていく。

その医師に適正な使用を促すべき厚労省は長い間、注意喚起を怠ってきた。薬剤の安全性情報の基本ともなる添付文書にさえ危険性を載せないという行政の不作為は、かつて問われた薬害事件と同じ構図であることに気づく。これが連載タイトルに「薬害・廃人症候群」とつけたゆえんでもある。

この問題が放置されてきた背景には、いまの医療の高齢者に対する意識の希薄さがあるように思える。もし、同じような問題が青少年に起きていたとしたらどうだろう。医者も厚労省も看過できないはずだ。

「高齢だからボケるのは仕方ない」「もう老い先が短いのだから」と命に見切りをつけてはいないだろうか。

この世に生を授かり、社会の荒波にもまれながらも生き抜いてきた高齢者にとって、晩年の身の処し方は、その生きた証しを遺すための大切な時期のはずだ。その最終章を迎えたときに、廃人同然にさせられては、たまったものではない。

坂口 直 医薬経済社編集部 記者

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さかぐち・なお / Nao Sakaguchi

1980年長崎県生まれ。大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻修士課程修了後、2006年に医薬経済社に入社。以降、厚生行政、製薬企業などを取材。

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辰濃 哲郎 ノンフィクション作家

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たつの てつろう / Tetsuro Tatsuno

1957年生まれ。慶応義塾大学法学部を卒業後、朝日新聞社に入社。支局、大阪社会部を経て、東京社会部で事件担当や遊軍キャップ、デスクなどを務める。2004年退社。主な著書は『ドキュメント マイナーの誇り―上田・慶応の高校野球革命』 『海の見える病院 語れなかった「雄勝」の真実』、共著は 『歪んだ権威 密着ルポ日本医師会~積怨と権力闘争の舞台裏』 『ドキュメント・東日本大震災 「脇役」たちがつないだ震災医療』。佼成学園高校で甲子園に出場。慶応大学では投手だった。関連して著書に『ドキュメント マイナーの誇り・上田慶応の高校野球革命』がある。

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