「赤字ベンチャー」に高値がつく本当の理由 「ユニコーン乱立」時代の「見えない」資本論

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最近はとくに読書家として知られるビル・ゲイツは、本書を絶賛しているという。

彼が作ったマイクロソフト社は彼を世界一の大金持ちにしたが、無形資産という観点からとても象徴的な企業でもある。マイクロソフトの有形資産は、実際には株価の1%程度にすぎず、その価値のほとんどが無形資産からなるという。

世界一の大金持ちの資産は、そのほとんどがダークマターでできているという驚くべき時代なのだ。

私は当初「ソフトウェア会社だからきっとそうなのだろう」と思っていたが、そう片付けるのはどうやら早計らしい。

マイクロソフトの帳簿を精査したチャールズ・ハルテンは、同社の価値を高めているものは「競争力を獲得・維持するための製品プラットフォームの構築またはその強化のための投資(で形成された資産)だ」と結論づけている。

それらは当然ながら物理的な形態を持たない。つまり、ソフトウェアももちろん無形資産ではあるけれど、無形資産は利益に貢献するもっと幅広いものである、ということなのだ。

そこからわかることは、スポーツジムや小売店といった有形資産が大きなウェートを占める業界であっても、いまや無形資産の影響はかなり大きいということだ。

スポーツジムはトレーニングマシンだけあればいい時代から、魅力的なプログラムの開発や優良な顧客ネットワークが競争優位のために重要である。

小売チェーンではPOSシステムなどの登場以降、データ解析の売り上げ寄与度は相当に高まっている。

そのような投資は昨今重要になっているが、これらもやはり無形資産である。

では、その企業の競争力を獲得・維持・強化するものへの投資とは、具体的には何だろうか。本書では、ソフトウェアやデータベースのほかには、研究開発、デザインや設計、知的・芸術的な創作物、市場リサーチとブランディング、研修などが挙げられている。

そして、経済全体で見ても、いまや無形資産への投資は、有形資産への投資を凌駕していると推計されている。この手続きの苦労も、専門家にとっては読みどころかもしれない。

ユニコーンの価値算定に絡む、無形資産

本書で取り上げられる例としては、マイクロソフトやアップルのほか、とくに新興のメガ企業、いわゆるユニコーン企業への言及もなされている。

例えばUberやAirbnbといった企業になぜ高値がつくのか。それは彼らの無形資産への評価によるものだという。とくに両社は競争力を維持するに足るサービス提供者×利用者のネットワークを評価されていて、さらに言えばネットワークがもつ特有の規模の経済性(いわゆるネットワーク外部性)の強固さがあるからだという。

これらはマイクロソフトの基本ソフトやアプリケーションのように、長期的な売り上げを創出する基盤となると市場関係者に思われているということだろう。

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